実践ビジネス英語 2020年8月13日

仕事に効くビジネス英語講座〈第22回〉GUCCIを日本初輸入した、茂登山氏の英語力



執筆者:PEGL事務局清水



今回は、例え英語が話せなくても、「笑顔」は真心や熱意を伝えることができるというのがテーマです。

突然ですが、仮にみなさんが日本の小さな個人商店の店主だとします。
イタリアのグッチの商品がまだ日本では売られていないと仮定して、グッチと取引して商品を輸入販売したいとしたとき、みなさんならこの一見無謀にも思える状況のもと、販売権の獲得に向けてどのように交渉にこぎつけるでしょうか?

『3割しか話さないのになぜかうまくいくビジネス英会話のルール』(ジャパンタイムズ)に実話のエピソードが紹介されています。

銀座に「サンモトヤマ」という日本におけるインポートセレクトショップの草分け的な存在のお店があります。1955年に「サンモトヤマ」を創業した茂登山長一郎会長は1959年から欧洲に商品の買い付けに行くようになります。本店へ行きウィンドウショッピングを重ねるうちに、茂登山氏がバッグに惚れ込んだグッチを訪問し、「日本で売らせてほしい」と何度も繰り返し頼みました。しかし「うちには世界中からお客様がいらっしゃる。だから今は輸出する必要はありません」と断られ続けられたと言います。

茂登山氏は英語もイタリア語もろくに話すことができず、何年もの間、門前払いが続きましたが、それでも諦めずに毎年のように、フィレンツェにあるグッチの本店を訪問しました。ある年、当時のグッチの社長だったバスコ・グッチ氏に面会が許されました。グッチに限りませんが、当時は相手の社長と直談判して、取引を実現していけた時代だったのだと言います。

直談判することがかなった茂登山氏はたどたどしい言葉でバスコ氏に必死にお願いしますが、やはり販売権を認めてはくれません。そのうち、パスコ氏は何気なく銀製のシガレットケースを手に取り、「グッチはこんな商品も扱っているんだよ」と茂登山氏に差し出して見せました。

すると、茂登山氏は、素手で受け取るのではなく、胸元からポケットチーフを取り出し、シガレットケースを恭しくパスコ氏から受け取りました。ひとしきりシガレットケースを眺めてから自分の指紋を綺麗に拭き取り、パスコ氏に返そうとしました。その様子を見ていたパスコ氏は茂登山氏に感激し、「これからはパスコと呼んでくれ。あなたと取引しましょう」と茂登山氏に申し出て、交渉が成立したのです。

シガレットケースでさえこれほど丁寧に扱ってくれる人物なら、そのほかのグッチの主力製品も大切に扱ってくれるに違いないでしょうし、安心して取引できる人物だと茂登山氏のことを判断したわけです。同エピソードは書『江戸っ子長さんの舶来屋一代記』(集英社新書)に出て来ます。

万人ができることではないと思いますが、こんなエピソードがビジネスの世界でも本当にあるものなのだなということを知っていただきたく、紹介しました。
“ビジネスに必要なのは言葉を操ることではなくて、真心や思いを相手に伝えることだ”と、前述した『3割しか話さないのになぜかうまくいくビジネス英会話のルール』の著者でビジネス心理学者の内藤誼人氏は言います。

内藤氏の専門ではなく、ビジネス心理学者で、その中でも対人心理学とコミュニケーション論が専門です。会話するにあたっての基本的な心構えは日本語であろうが英語であろうが変わりはないと言います。語学書には英会話するにあたっての心構えが書いたものがないので、ビジネス心理学者の内藤氏が執筆したのが同書というわけです。

内藤氏によると、会話で大切なのは、言葉ではなく、豊かな表情です。豊かな表情を出しながら会話をすれば、日本語であろうが、英語であろうが、通じるのだと言います。英語のリスニングやスピーキングのトレーニングはするのに「なぜ、鏡を見ながら、魅力的な表情を見せるためのトレーニングをしないのか?」というのが、内藤氏の持つ問題意識です。

英語には単語が10万語ほどあるということですが、非言語的なシグナル(表情やしぐさ)は75万語もあと推定されているのだと言います。言葉ではなくしぐさや表情で伝えることのほうがはるかに成しうることが多いのだと言います。

いかがでしたでしょうか。
私は外国人の絵師に似顔絵を描いてもらったことが20年ほど以前にあり、記念に自分の部屋に飾ってはいるのですが、その無表情さにその似顔絵を見るたびに「何とかしなければ」と思いつつ、何もせずに今日に至ってしまいました。

表情やしぐさだけの無声映画の中で役を演じるチャールズ・チャップリンや、短時間で、表情やしぐさで人の注意を惹き、印象に残そうと競っているテレビコマーシャルの中で役を演ずる人を思い浮かべながら同書を読み進めました。

みなさんは、表情やしぐさで外国人とのビジネス・コミュニケーションがうまくいったという経験をお持ちですか?

【参考】
『3割しか話さないのになぜかうまくいくビジネス英会話のルール』(ジャパンタイムズ) pp.69‐71、214‐215
http://www.amazon.co.jp/dp/4789016218

『江戸っ子長さんの舶来屋一代記』(集英社新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/4087203026
(最終アクセス:2020年8月13日)

※この記事は、ビジネス・ブレークスルー大学 オープンカレッジ講座「実践ビジネス英語講座-PEGL[ペグル]-」で毎週木曜配信中のメルマガ「グローバルリーダーへの道」において、2016年02月29日に配信された『今週のコラム』を編集したものです。


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ナビゲーター:清水 愛(しみず めぐみ)
PEGL[ペグル] 英語教育事務局 マーケティング/PEGL説明会、個別ガイダンス担当。2012年BBT入社。前職は海外留学カウンセラー。これまで6,000人を越えるビジネスパーソンと接し、日々ひとりひとりの英語学習に関する悩み解決に向き合いながら、世界で挑戦する人たちの人生に関わる。

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