業界ウォッチ 2019年3月4日

教員のちょっと気になる「スイス時計輸出」



執筆:谷口賢吾(BBT大学大学院 講師)


今回は、「スイス時計輸出」を取り上げてご紹介いたします。

先日、スイス時計協会が2018年の年次報告を発表しました。同報告によると2018年のスイス時計輸出額は前年比6.3%増の210億スイスフラン(約2兆3100億円)となりました。

それでは、この数字から、スイスの時計産業が好調だといえるのでしょうか。スイス時計の輸出は、長期的に見てどのような動きを示してきたのか、おもな輸出相手先はどの国・地域で、どのような推移を見せているのでしょうか。実際に数字を見て確認したいと思います。

まずスイスの時計輸出額の推移(2000~18年)をみると、‘00年には10.2億スイスフラン(以下CHF)で、’08年(170億CHF)まで増加トレンドでしたが、‘09年にリーマンショックで13.2億CHFまで落ち込んでいます。その後、再び増加トレンドとなりますが、’14年(22.2億CHF)をピークに、’16年には194億CHFへと落ち込みました。これは、スイスフランの通貨高に加え、おもな輸出相手国の中国政府の反汚職キャンペーンなどの動きが、高級スイス時計対中国輸出に不利に働いたといわれています。

しかし、その後また輸出が盛り返し、2年連続の増加となっています。

輸出相手国別に見ると、香港が最も輸出額が大きく’18年は30億CHFとなっています。ちなみに香港への輸出の大半が中国に流れているとみられています。

香港に次いで輸出額が大きいのが米国で22億CHF、以降、中国(17億CHF)、日本(13億CHF)、英国(12億CHF)、と続きます。

これらの国の輸出額の推移をみると、香港が‘14年から‘16年にかけて大きく落ち込み、その後回復を見せています。香港、米国、中国、日本はいずれも’18年は対前年比で増加となっていますが、英国は対前年比でマイナスとなっています。

こうしてみると、18年は世界的にスイス時計が輸出増となっており、概ね16年以降増加トレンドとなっていることがわかります。特に香港・中国の16-18年の伸びが著しいことが図を見るとよくわかります。

同協会ジャン・ダニエル・パッシュ会長は、「成長が鈍り米中貿易戦争を巡るリスクが高まっているが、中国の中流層は成長を続けている。進時計への需要はなお旺盛だ」と、この傾向が続くとみているようです。

一般的には、高級品は景気の影響を受けやすく、米中貿易戦争で高級品市場へのマイナスインパクトが想定されそうなものです。しかし、中国の中流層・富裕層の伸びが、それを上回って、スイス時計の需要を押し上げると考えられていることになります。

高級品で成長するスイス時計産業から、日本も学べることがたくさんありそうですね。

執筆:谷口賢吾(たにぐち けんご)

ビジネス・ブレークスルー大学、同大学院 専任講師
地域開発シンクタンクにて国の産業立地政策および地方都市の産業振興政策策定に携わる。
1998年より(株)大前・アンド・アソシエーツに参画。
2002年より(株)ビジネス・ブレークスルー、執行役員。
BBT総合研究所の責任者兼チーフ・アナリスト、「向研会」事務局長を兼ねる。
2006年よりビジネス・ブレークスルー大学院大学講師を兼任。
同秋に独立、新規事業立ち上げ支援コンサルティング、リサーチ業務に従事。

<著書>
「企業における『成功する新規事業開発』育成マニュアル」共著(日本能率協会総合研究所)
「図解「21世紀型ビジネス」のすべてがわかる本」(PHP研究所)