今回は「アクションカメラ市場」を取り上げます。
スポーツの迫力を手軽に記録する道具として広がったアクションカメラは、旅行や日常の動画発信にも利用されるようになりました。その市場を切り開いた米GoProが、経営の転換点に立っています。
同社は「継続企業としての存続に重大な懸念」を表明したと報じられ、2026年9月1日には米光学部品メーカーのスターマン・オプティカルとの合併契約締結を発表しました。合併は規制当局や株主の承認などを条件に年内の完了を予定し、防衛や航空宇宙分野への展開を目指します。
市場の先行企業だったGoProは、なぜ急速にシェアを失ったのでしょうか。そして、中国企業はどのような戦略で市場の主導権を握ったのでしょうか。データから、その構造的な変化を見てみます。

まず、アクションカメラ市場全体を見てみます。図表に示す世界市場規模は、2022年の21.5億ドルから2025年の27.8億ドルへ拡大しています。Straits Researchは、2026年に30.3億ドル、2034年には59.9億ドルになると予測しています。予測期間である2026~2034年の年平均成長率(CAGR)は8.9%です。2034年の市場規模は2022年の約2.8倍に相当し、今後も成長が見込まれています。
一方、GoProの売上高は2015年の16.2億ドルがピークです。2016年には11.9億ドルへ26.8%減少し、2019年までは12億ドル前後で推移しました。2021年の11.6億ドルに対し、2022年は10.9億ドル、2023年は10.1億ドル、2024年は8.0億ドル、2025年は6.5億ドルと、4年連続の減収です。2025年の売上高はピーク時の40.2%にとどまっています。前年比の減少率は2024年が20.3%、2025年が18.7%と、やや縮小したものの、2割前後の減収が続いています。
地域別に2015年と2025年を比べると、米大陸は8.7億ドルから3.8億ドルへ減少し、2015年の44.1%の水準になりました。EMEA(欧州・中東・アフリカ)は5.4億ドルから1.9億ドルで同35.6%、APAC(アジア太平洋)は2.2億ドルから0.8億ドルで同35.8%です。米大陸以外の縮小が相対的に大きく、APACの売上構成比も2019年の26.1%から2025年の11.9%へ低下しています。
次に、市場シェアを見てみます。Meritco Servicesの広角型アクションカメラ市場の調査では、販売台数ベースのGoProのシェアは2022年の79.0%から2025年1~9月の21.0%へ低下しました。同期間にDJIは5.0%から54.0%へ上昇し、首位が交代しています。Insta360も2025年1~9月には13.0%を占めています。なお、同資料の2025年の数値には推計が含まれます。
特に2023年から2024年にかけて、GoProが約28ポイント低下する一方、DJIは約26ポイント上昇しました。顧客がそのまま乗り換えたとまでは断定できませんが、両社の市場での地位が大きく変化したことが読み取れます。
一方、IDCの「手持ちスマートカメラ」市場では、中国2社の出荷台数シェアの合計は2025年の82.8%から2026年1~3月には87.0%となりました。同四半期の内訳はDJIが65.0%、Insta360が22.0%、GoProが6.0%です。この市場には360度カメラやジンバルカメラも含まれ、Meritcoの調査とは対象市場や集計方法が異なります。両者は直接比較できませんが、周辺の撮影機器を含めても中国2社の優位が確認できます。
IDC調査を紹介した日本経済新聞によると、2025年の手持ちスマートカメラ市場全体の出荷台数は前年比83.0%増でした。一方、GoProの開示資料では、同年のカメラ出荷台数は24.9%減です。市場が拡大する中、同社は出荷台数でも後退しています。
この地位交代の背景には、顧客が求める価値の変化があると考えられます。
GoProは、サーフィンやサイクリングなどの撮影需要を掘り起こし、「冒険するライフスタイル」をブランド化することで成長しました。しかし、SNSやVlog(ビデオブログ)の普及に伴い、一般ユーザーが重視する価値は、耐久性や防水性に加え、人物の撮りやすさ、編集やデータ転送のしやすさへと広がっています。36Kr Japanは、こうしたコンテンツ制作を重視する需要への対応の遅れを指摘しています。
加えて、撮影性能の改善も課題でした。日本経済新聞が紹介したBCNの分析では、GoProは熱暴走への対応や夜間撮影性能の改善で後れを取り、中国勢に顧客を奪われたとされています。使いやすさだけでなく、安定して撮影できるという基本的な価値も問われたと考えられます。
対照的に、DJIはドローンで培った技術を撮影機器へ展開しました。ジンバルと呼ばれる手ぶれ補正装置の技術は「Osmo Pocket」に転用し、アクションカメラでは画像処理や操作性、データ転送などを改善しています。暗所撮影に強い大型センサーの搭載など、顧客が実感しやすい性能向上も重ねてきました。
一方、Insta360は、360度カメラとAIによるリフレーミング機能を強みにしています。撮影後に構図やアングルを選べる仕組みによって、撮影時にカメラの向きを決める負担を減らし、旅行やSNS向けの動画制作を容易にする利用体験を提供しています。
こうしてみると、GoProの苦戦は、顧客ニーズへの対応と撮影性能の改善という両面から捉える必要があります。GoProも編集アプリ「Quik」やクラウドサービスを提供しており、ハードウェアだけに取り組んでいたわけではありません。問われるのは、個別の技術を撮影から編集・共有までの使いやすさに結び付け、競争優位として維持できたかです。
中国2社は、制御技術や画像処理、AI編集など、それぞれの強みを用途の拡大へつなげてきました。36Kr Japanは、こうした顧客ニーズを起点とする製品の再定義を、ロボット掃除機などにも共通する中国企業の成功パターンとして指摘しています。
日本の映像機器メーカーをはじめ、日本企業にとっても、自社の技術を守るだけでなく、それが顧客のどの不便を解消するのかを問い続ける必要があります。技術と利用体験を一体で改善する力が、持続的な競争優位を支えるということが読み取れます。
資料:
・Straits Research「アクションカメラ市場」
・Statista「GoPro’s revenue worldwide from 2012 to 2025, by region」
2026Q1全球手持智能相機出貨量増長33%,市場継続保持高熱度
参考記事:
・日本経済新聞「米GoProが『身売り』検討、売上高半減 中国DJIが性能面で躍進」2026年5月23日
・日本経済新聞「米ゴープロ、米光学部品のスターマンと合併 防衛分野で生き残り」2026年9月2日
・36Kr Japan「『存続に重大な懸念』アクションカメラ王者のGoPro、なぜ中国勢に負けたのか」2026年8月12日