今回は「テレビ端末の利用状況の変化」を取り上げます。
「若者のテレビ離れ」という言葉が使われて久しくなります。スマートフォンが生活の中心となり、リビングのテレビの存在感は低下したように見えます。しかし、データを丁寧に見ると、少し異なる実態が浮かび上がります。テレビという「端末」は今も使われ続けており、変わったのは「その画面で何を見るか」です。Netflix、TVer、YouTube、地上波が同じ画面に並ぶ現在、かつて語られた「放送と通信の融合」は、生活者の視聴画面上で現実のものになりつつあります。
では、データは何を示しているのでしょうか。テレビ端末は本当に使われなくなったのでしょうか。それとも、放送を見るための機器から、別の役割を持つスクリーンへと変化しているのでしょうか。実際に数字を見ながら確認していきます。
まず確認したいのは、テレビ端末そのもののインターネット結線率です。添付データによれば、2015年に24.5%だったネット結線率は、2020年に45.8%へ上昇し、2025年には65.6%に達しています。10年間で41.1ポイントの上昇です。この数字は、テレビが単なる電波受信機ではなく、広義のインターネットデバイスへと変化していることを示しています。少なくとも調査対象範囲では、テレビ端末のネット接続は半数を大きく超えて一般化しつつあります。
テレビスクリーンで何を利用しているかを見ても、同じ方向性が確認できます。2025年時点でもリアルタイム放送の利用率は88.9%と高い水準にあります。一方で、無料動画の利用率は55.7%、見逃し配信は50.0%、有料動画は48.2%まで上昇しています。2020年から2025年の変化を見ると、リアルタイム放送は94.1%から88.9%へ5.2ポイント低下し、録画も83.1%から69.6%へ13.5ポイント低下しました。対照的に、見逃し配信は20.9%から50.0%へ29.1ポイント増、有料動画は20.6%から48.2%へ27.6ポイント増です。テレビ画面上の利用は、放送・録画中心から、配信・動画サービスを含む形へ重心を移していると読み取れます。
次に、1日あたりのテレビ画面利用時間を年代別に見ます。全体では週平均ベースで166.8分、そのうち「テレビのリアルタイム放送」は83.4分で、全体の50.0%を占めています。しかし年代別に分解すると、世代間の違いが鮮明になります。
15~19歳では、1日あたりのテレビ画面利用時間は159.6分で、全体平均と大きくは変わりません。ところが内訳を見ると、リアルタイム放送は43.2分にとどまる一方、動画共有サービスが38.4分、SNS上の動画が34.2分、その他のインターネット動画が13.8分です。さらに見逃し配信11.4分を含めると、ネット由来の動画視聴時間は97.8分に達し、リアルタイム放送の約2.3倍となります。20~29歳でも、リアルタイム放送40.8分に対し、ネット由来の動画視聴時間は66.0分です。若年層はテレビ端末を使わなくなったのではなく、テレビ端末で放送以外の動画を見る比重が高いと読み取れます。
一方で、高齢層では異なる傾向が見られます。60~69歳では、1日あたりのテレビ画面利用時間207.0分のうち、リアルタイム放送が122.4分を占めています。70~74歳では、合計244.8分のうち165.6分がリアルタイム放送です。構成比では67.6%に達します。ここから、テレビのリアルタイム放送が高齢層の視聴に強く支えられている構造が見えてきます。
この意味で、現在起きているのは単純な「テレビ離れ」ではありません。より正確には、「テレビ端末離れ」ではなく、一般に言われる「地上波離れ」、より厳密には「リアルタイム放送離れ」に近い現象です。テレビ端末は、放送、見逃し配信、YouTube、有料動画配信サービス、SNS動画を並列に扱うインターフェースへと役割を拡張しています。
こうしてみると、テレビ端末をめぐる変化は、単なるメディア利用の好みの変化にとどまりません。社会的には、同じテレビ画面を前にしながら、若年層はネット動画やSNS動画を選び、高齢層はリアルタイム放送を選ぶという、世代ごとの情報接触の分化が進んでいることを意味します。事業面では、テレビを「放送を届ける装置」としてではなく、「家庭内の大画面デジタル接点」として捉え直す必要があります。広告主は、地上波CM、見逃し配信、コネクテッドTV(CTV)広告、動画配信サービスを横断した接触設計を検討すべきですし、放送局やコンテンツ事業者は、リアルタイム視聴に依存しない収益モデルや、テレビアプリ上での顧客接点づくりを考えていく必要があります。また、公共放送を含む放送制度についても、テレビ端末の保有と放送視聴が必ずしも一致しなくなった現実を踏まえ、制度と利用実態の関係をどう再定義するかが問われます。データからは、テレビ端末の価値が失われているのではなく、その上で選ばれるコンテンツ、広告接点、課金モデルが組み替わりつつあるということが読み取れます。
資料:
・ビデオリサーチ「VR Digest plus」
・博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所「メディア定点調査」
・「メディア定点調査」
・電通報「情報メディア白書 特集レポート2026」(電通メディアイノベーションラボ「メディア利用実態調査2025」)