大前研一メソッド 2026年4月21日

燃料デブリの取り出しをなぜ諦めないのか

fuel debris removing
この論文から学ぶべき「大前研一メソッド」
<不都合な現実から逃げた瞬間、問題は永遠に解決しなくなる>

福島第一原発の廃炉工程の停滞は、日本の意思決定の弱点を凝縮した典型例である。
・現実は「できるかどうか」で決まり、「やりたいかどうか」では決まらない
・ウソは“過去の問題”ではなく“未来の意思決定”を歪める
・誤った前提の上では、どんな解決策も機能しない
・信頼は「安全性」ではなく「透明性」で決まる
「燃料デブリの取り出しはできない」ことを認める勇気こそが、解決への道である。

東京電力は2026年4月16日、福島第一原発2号機の原子炉圧力容器にファイバースコープを挿入し、内部を調査した。炉心溶融(メルトダウン)した1~3号機で容器内を直接調べるのは初めて。得られた情報は溶融核燃料(デブリ)の取り出し工法などの検討に活用するとしています。一方、大前学長は「デブリの取り出しは不可能」と断言します。

大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部

原発事故から15年が経過し、教訓を伝える語り部たちが引退

東日本大震災と原子力発電所事故から15年が経過した。7市町村にまたがる帰還困難区域は、今も居住が制限されたままである。牧野京夫復興相は報道陣の共同インタビューで「希望する人が一刻も早く帰還できるよう全力で取り組む」と話したが、「一刻」は分や時間単位で時を争う場面で使う表現だ。地震発生から5500日が経過した今、大臣の言葉は空しく響く。

私は細野豪志原発事故担当相(当時)から頼まれて原発事故を検証した。東京電力や東芝、日立製作所から精鋭を派遣してもらって検証チームをつくり、半年かけて約280ページの報告書を作成。再発防止策も含めていくつかの提言をした。しかし、その多くは実行されないままうやむやになっている。当時の関係者の多くは第一線を退いた。事故直後、メルトスルー(核燃料が容器外に流出する事態)を指摘した私を呼び出して説明させた菅直人総理(当時)や、提言の実現に動いてくれた自民党の大島理森衆議院議員(当時)は、すでに政界から引退した。

官僚も顔触れが変わった。経産省出身で、細野原発事故担当相の秘書官を務めていた小澤典明氏は、役人の中では原発にもっとも詳しい一人だった。経産省に戻った後、2022年に資源エネルギー庁次長になり、「また原子力の担当になりました」と挨拶に来たが、1年後には退官している。

民間も同様で、検証チームに集まってくれた各社のメンバーも多くは定年を迎えた。もはや日本の中枢に原発事故の教訓を伝える語り部はいない。残った私があらためて大事なことを伝えておかねばならないだろう。

デブリは推定で880t、除去できたのは0.9g

原発事故から学ぶべき最大の教訓は、何よりもウソをつかないことである。

私は米マサチューセッツ工科大学(MIT)の大学院博士課程を修了した後、日立で原発の設計者をしていた。地元住民の説明会で驚いたのは、電力会社がつくウソだった。

原発にかぎらず事故は確率論であり「絶対」はありえない。万が一を想定して、可能なかぎり備えるのがエンジニアの仕事である。しかし、説明会で「万が一に備えて避難訓練を」と言えば住民から突き上げを食らう。欧米では「安全です。but、事故が起きた場合は」と言えば確率論として聞いてもらえるが、日本は言霊信仰があって、「安全です。しかし事故が起きた場合は」と説明すると、逆に「事故の可能性を口にしたのは安全ではない証拠」とウソつき呼ばわりされてしまう。

住民にウソつきだと思われると設置を認めてもらえない。そこで電力会社は真実を話さずに「絶対に安全」とウソをつく。なんとも歪な構造だった。人や組織は一度でもウソをつくとそれにとらわれていく。住民にウソの説明を続けるうち内部でも自分たちのついたウソを受け入れ、現実から目を背けて思考停止するようになるのだ。

事故後、細野原発事故担当相に呼ばれて霞が関にいくと、原子力安全委員会委員長の部屋があった。委員長は安全だと判断して許可を出した組織のトップであり、自らの過ちを認めたくなかったのだろう。扉は固く閉ざされ、「面会謝絶」とドアには書かれており引きこもり状態だった。対策を立てなければいけない立場の人間がこれでは、まともに事故対応ができるはずがない。

検証チームでも、東京電力社員は最後までメルトスルーを認めなかった。東電にはのちに福島第一原発の所長になる優秀な人もいた。報告書をまとめた後、私が「あなたとはあらゆることで見解が一致したが、メルトスルーだけは一致しなかったね」と話すと、彼は「申し訳ありません」と頭を下げた。優秀な人だから何が起きたかわかっていたに違いないが、組織人として現実を認めるわけにはいかなかったのだ。

日本の原発政策は当時から一歩も進歩していない。たとえば燃料デブリ(メルトスルーした核燃料と周囲の構造物が冷えて固まった物質)の除去だ。政府と東京電力は2051年までにデブリを除去して廃炉を完了させるとしている。しかし、どう考えても除去は無理だ。福島では過去2回合わせて0.9gのデブリを除去したが、デブリの全量は推定880tある。いったい何年かかるのか。ロボットを開発するというが、放射線量の高いところにロボットを入れたら数分で半導体がダメになる。

本当のことを言わないのは、原子炉を建てるときに自治体と「廃炉して更地にしてから返す」と約束しているからである。東電は、「絶対に安全と言ったのは間違いでした。デブリの除去もできません」と言って自らの間違いを認めるところから始めるべきだ。デブリは除去できないと正直に認めれば打ち手も変わる。人が住めるようにはならないのだから、土地は国が買い上げて1〜4号機はコンクリートで覆う石棺方式にすればいい。原発周辺の中間貯蔵施設には被災各地から除染土が集められて一時保管されているが、それもその場で恒久的に保管する方向で考えたほうがいい。

ところが、政府は帰還困難区域について、「たとえ長い年月を要するとしても、将来的に帰還困難区域の全てを避難指示解除し、復興・再生に責任を持って取り組む」という方針を示している。避難指示をすべて解除するというのもまた無責任なウソであり、それに縛られているかぎり有効な手は打てない。

信頼は正直さでしか回復しない

情報をありのまま開示していれば、事故を起こしていない5〜6号機や、福島第二原発を再稼働できた可能性があった。1979年、米国のスリーマイル島原発は2号機がメルトダウンを起こした。しかし1号機は無事で、その後再稼働している。住民の理解を得られたのは、ウソをつかなかったからだ。電力会社はメルトダウンを認めて原因を説明しただけではない。原子炉のオペレーションを開示して、万が一に備えて住民と一緒に避難訓練を繰り返した。その姿勢が信頼につながったのである。

ちなみに1号機は老朽化と採算性の悪化で2019年にいったん廃炉が決まった。しかしエネルギー需要の高まりを受け、電力会社は再稼働を決定。2028年に予定している再稼働後、マイクロソフトのデータセンターに20年間にわたって電力供給する契約を結んだ。日本も直近では中東情勢、中長期的にはAI普及で電力需給が逼迫することは間違いない。福島第一の5〜6号機、福島第二原発が再稼働できれば大きく寄与するが、福島県民が再稼働に納得することはほぼ不可能になってしまった。

「トイレなきマンション」が示す原発政策の限界

もっとも、原発の運用には地域住民の信頼回復以外にも大きな問題が残っている。核のゴミの最終処分場がなく、「トイレなきマンション」状態から抜け出す目途が立っていないのだ。

現在、核のゴミは青森県のむつ小川原にある再処理施設でガラス固形化されて中間貯蔵されている。それを最終処分地まで運び、地下300m以上の深さに埋めて10万年かけて無害化する計画だが、肝心の最終処分地が決まっていない。何万年も安定的に埋めておく必要があるため、断層の上は危ないし、人が多いところも避けたほうがいい。

現在、世界中がこの問題に頭を悩ませていて、地中の貯蔵施設建設に至ったのはフィンランドだけだ。

日本も難航している。自治体の立候補があれば原子力発電環境整備機構(NUMO)が3段階で調査を行う。第1段階は文献調査、第2段階はボーリングで現地を調べる概要調査、第3段階が地下施設をつくる精密調査だ。

現在、北海道の寿都町と神恵内村が第1段階を終え、佐賀県玄海町が第1段階に入った。しかし、第2段階以降に進むには知事らの承認が必要。今のところ北海道・佐賀の両知事とも否定的であり、実現の見込みは低い。実は文献調査で最大20億円、概要調査で最大700億円が交付されるため、第3段階前に立候補を取り下げれば90億円が手に入る。自治体は丸儲けだが、逆にいうとこれくらい大盤振る舞いしないと手を挙げる自治体がないのだ。

業を煮やした政府は2026年3月、逆に東京都小笠原村に文献調査の申し入れをした。政府が目をつけたのは南鳥島だ。南鳥島は太平洋プレート上で安定しており、防衛省などの職員以外は誰も住んでいない。

原発再稼働が難しく、中東危機で火力発電も頼れないなら、再生可能エネルギーへの期待が高まるが、陸も海も平らなところが少ない日本は、太陽光や洋上風力に地理的に向いていない。

私ならオーストラリアから電力を直輸入する。豪州にはグレートサンディ砂漠という広大な砂漠がある。そこで太陽光発電を行い、直流高圧送電で日本まで電力を送れば、石油を輸入して発電するよりずっと安定的だ。

直流高圧送電の優れた技術はスイスABBが持っていたが、2020年に日立が送配電事業を買収。ABBの直流高圧送電技術はロスが低く、中国で山奥のダムから上海など沿岸部への送電実績があった。1000km近い距離で電力ロスは3%くらいだと言われている。これを活用すれば太平洋を縦断する長距離送電も実現できる。

もちろんこのアイデアにもリスクやデメリットはあるだろう。大切なのは、都合の悪いことを無視するのではなく、正面から向き合って一つ一つ解決していくこと。それが、私たちが原発事故から学ぶべき教訓である。

※この記事は、『プレジデント』誌 2026年5月1日号を基に編集したものです。

大前研一

プロフィール マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。