15日、米保険最大手AIGは、マーティン・サリバン最高経営責任者(CEO)の辞任を発表しました。サブプライムローン関連の巨額損失を被った責任を明確化したものとみられています。また米証券大手ゴールドマン・サックスは、17日、米国の銀行はサブプライムローン問題に関連した損失を穴埋めするために、およそ650億ドル(7兆円)の追加資本増強を迫られる可能性を指摘しています。
サブプライム問題によって影響受けるノンバンクの代表例が、今回のAIGのような保
険会社です。しかし、ゴールドマン・サックスの試算によると、AIGのようなノンバ
ンクを含まず、バンクだけでも7兆円の追加資本増強が必要ということですから相当
に大きな金額だと言えるでしょう。
これまでの欧米金融機関のサブプライム問題関連の損失、及び増資状況を見てみる
と、アブダビ投資などの石油を背景とする資金やシンガポール(GIC、テマセク)、
中国(中国投資公司)の資金によって支えられてきていることがわかります。
しかし今後は、シンガポール・中国勢といった外国も無制限に資金を提供してくれるほどお人よしではないでしょうし、市場から7兆円もの資金を調達することは不可能に近いと私は思います。
私は半年ほど前から常々、サブプライム問題の解決に当たっては、政府が主導するスウェーデン方式しかないと主張してきました。スウェーデン方式とは、90年代商業用ビルが破綻して金融危機に陥ったスウェーデンで採用された方法で、国家の信用を抵当に銀行をエマージェンシー・ルームに収容して救済するという方法です。
これまでも米国政府が自ら動き出さなくては問題が解決されない局面が迫ってきているのを感じていました。今回のサブプライム問題の影響による、欧米銀行の時価総額の落ち込み度合いを見て、一層その確信が深くなっています。
2007年3月と2008年6月の時価総額を比べてみたとき、日本の銀行と比べて欧米の銀行の時価総額の落ち込み度合いはかなり大きくなっています。もともと日本の銀行は時価総額が大きくなかったという側面もありますが、それを差し引いても欧米の銀行の時価総額の落ち込み度合いは、「問題なし」と言えるレベルではないでしょう。
バークレー銀行の時価総額は10兆円強から半減していますし、シティバンクにいたっては時価総額が約30兆円から10兆円になっていますから、半減よりさらに悪い数値になっています。この状況に加えて、これから7兆円もの資本増強が必要だというのですから、政府はいち早く手を打つべく動き出すべきだと私は思います。
●日本の銀行に経営手腕があれば、一流銀行を手に入れるチャンスでもある
20日、三井住友銀行は、英銀大手バークレーズに対し、1000億円規模の出資をする方向で最終調整に入ったと報じていますが、先ほど見たように、苦況に立たされている欧米銀行に対して、日本勢が進出していく絶好のチャンスだと私は思います。
1兆円規模で時価総額が下がっている銀行に対して、わずか1000億円で何の効果があ
るのかという見方もできます。しかし、日本の三菱UFJ銀行、みずほ銀行、そして三
井住友銀行などにとっては、欧米銀行の資本が痛んでいるところへ自らの資本を入れ
られるという意味で、絶好のチャンスだと私は言いたいのです。
欲を言えば、欧米の銀行が今必要としている金額は、場合によっては兆単位ですから、そのくらいの金額を投資して欲しいという期待はあります。本当に日本の銀行に経営力があれば、兆単位の資金を使っても、欧米の一流銀行をテイクオーバーできるチャンスなのだから決して損な話ではないと思います。
実際には日本の銀行は臆病ですから、1000億円単位でお付き合い程度の資本を入れることで精一杯、というのが現状でしょう。それでも、今回三井住友銀行が出資したバークレー銀行は基本的に良い銀行ですから、これから回復した後、三井住友が出資した1000億円が大きな金額になって帰ってくる可能性はあると思います。
三井住友銀行は、住友銀行時代にゴールドマン・サックスに出資していて、ゴールドマン・サックスの上場後、持ち株を売却して莫大な利益を得たという過去の実績もあります。当時、住友銀行が窮地に陥っている中、この売却益は相当大きなリターンだったと思います。今回のバークレー銀行への出資も、同じような可能性があるかも知れません。
ただ、シティバンクほど中身が傷んでしまっていたら、さすがに手の施しようがなく、かつてのゴールドマン・サックスのような期待をするのは不可能でしょう。
日本の銀行にとってはビジネスチャンスにもなり得る状況ではありますが、欧米銀行の状況は日に日に悪化していると言えるでしょう。さらに状況が進み、本当にもう手の打ちようがない銀行が続出してしまったら、世界の経済に与える影響は計り知れません。特に米国政府は現状を正しく認識し、一早く手を打っていくべきだと強く感じています。
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