ロシア株式市場が下落している本当の理由とは?
ロシアの株式相場がプーチン首相の発言を受け急落していると報じられています。プーチン首相が国内大手の石炭・鉄鋼メーカーの経営方針を激しく批判したことで政府による企業への圧力に対する懸念が強まったことが原因だと言います。
プーチン首相が批判の矛先を向けたのは、ニューヨーク市場にも上場するメチェル社。同社に対し、国内向けよりも安く製品を輸出していることを批判しています。
これまでにもプーチン首相は似たような発言をしたことがありますし、私に言わせれば、今回の件もプーチン首相がいつもやっていることの1つの事例で、これによってロシアの株式市場が大きく下落したとは考えづらいと思います。
実際、ロシアRTSの推移を見てみると、今年の5月から急激に株価が下落しているのがわかります。5月というタイミングは、メドベージェフ大統領が就任した時です。ですから、ロシアの株式市場の下落はプーチン首相による企業圧力への懸念が原因というよりも、むしろ、プーチン首相が大統領から退いたことが原因だったと考える方が自然だと思います。
もう1つ原因として考えられるとすれば、ロシアが英国のBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)ともめていることで、ロシアに対して投資家が嫌気を差し始めてきたということだと思います。
英国のBPが50%を出資するロシア第3の石油企業「TNK-BP」をめぐり、ロシア側がBPの権益や資産を奪取する動きを見せています。税務や入管当局による圧力も加わり、BPが派遣したCEOや技術者らが帰国する事態になり、TNK-BP自体が企業解体の危機に追い込まれている状況になっています。
プーチン首相による企業批判というのは、今に始まったことではありません。今回のメチェル社への批判も大げさに受け止める必要はないと私は思います。ロシアの株式市場が下落している本質的な原因は別のところにあり、それを見誤ることがないようにしてもらいたいと思います。
●原油に連動してロシア株価が下落するのは当然だが、心配する必要はない
では、ロシアの株式市場が下落している現状をどのように受け止め、また今後どのような展望を持つべきでしょうか?
エリツィン政権の地方分権政策によって混乱をきたしていたロシアが、ここまで経済復興を成し遂げられたのは、プーチン政権の下で中央集権化を進めた結果、社会が安定し、また資源輸出を中心とした貿易黒字が伸びて財政状況が大幅に改善したためです。
端的に言えば、原油価格の上昇によって経済危機を乗り越えたと言えるロシア経済ですから、今のように原油価格が下落している局面では、同じ程度にロシアの株式市場も下落するのは当然のことだと私は思います。
それでも、かつて地獄を見てきたロシア経済から考えれば、今の状況は特別に問題視するべき状況ではないと言えるでしょう。
ロシアの原油生産施設や機械は古いものが多く、世界的に見ると原油生産価格(コスト)は高いと思います。もしかすると、1バレル当たり2ドル~3ドルでは収まらず、10ドル前後のコストになっているかも知れません。しかし、それでも売値が100ドルですから利益は1バレル当たり90ドルになり、十分に儲かっています。
確かに、今回のプーチン首相のメチェル社への批判は「余計なこと」だったと思います。ただ、プーチン首相は今までも同じように「余計なこと」を言いながらも、ロシアという国をここまで復興させてきたというのも事実です。
目先のニュースに惑わされず、ロシア経済が根ざしている基盤、これまでの経済復興の経緯などから考えれば、現在ロシアの株価は下落を続けていますが、これによってロシア経済が崩壊することはないと私は思っています。
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