数十億規模の損失がまだ「序章?」米金融大手が受け続ける3段階の大打撃|株式・資産形成講座メルマガ

  2008/10/29(水)  
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数十億規模の損失がまだ「序章?」米金融大手が受け続ける3段階の大打撃

もはや「金融機関」とは言えない経営状態

16日、米大手銀シティグループが発表した7―9月決算は、最終損益が28億1500万ドル(約2800億円)の赤字、また同日発表したメリルリンチも51億5200万ドル(約5100億円)の最終赤字でした。赤字額は予想の範囲内でしたが、損失は景気減速を反映して個人向け融資など幅広い資産に拡大しており、両者は公的資金の注入を受け入れる方針を明らかにしています。

シティグループ、メリルリンチを始め、今回米国の金融機関は押し並べて公的資金注入を受け入れる姿勢を示しています。今の状況からすると、公的資金の受け入れを断るだけでも、その金融機関に対する不安が広がってしまう可能性があるからだと思います。最悪の場合、不安心理に煽られてサイバー取り付け騒動に発展することも十分に考えられます。

以下の図表は昨年から今年にかけての米大手金融機関の損失額の推移を見たものです。


この図表からわかるように「見るも無残な結果」になっています。シティバンク、メリルリンチ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースといった米国を代表する大手金融機関が、いずれも5四半期連続で莫大な損失を計上しているという始末です。もはや「金融機関」と呼ぶに値しないレベルです。

2008年第3四半期の結果を見ると、メリルリンチの損失額が最も大きくなっていますが、いずれの金融機関も100億ドル前後の損失額を計上しており、どんぐりの背比べ状態です。昨年からの結果を通してみると、JPモルガン・チェースなどもひどい有様ですが、やはりシティグループとメリルリンチという2社が一際大きな損失を計上していることが分かります。

今回の赤字決算を見ても散々な結果だったと言えますが、金融危機という恐ろしいゲームはまだ始まったばかりです。今は流動性危機という第1フェーズでしかありません。これから不良資産の償却という第2フェーズを迎え、さらに資本が毀損していきますから、米大手金融機関にとっての本当の正念場はまさにこれから始まると言っても良いでしょう。


●不良資産爆弾の第1弾は、クレジットカード?

今後の展開を不安視されている米金融機関について、10月20日号BusinessWeek誌では1つ具体的な不安材料を指摘する記事が掲載されていました。そのタイトルは「THE CREDIT-CARD CLOWUP AHEAD」というものです。「クレジットカード」という不良債権の爆弾が炸裂するかも知れないということです。

この記事では、シティバンク、バンク・オブ・アメリカなどの米大手金融機関ではクレジットカード部門が極端に肥大化していると指摘しています。この金融危機の中、クレジットカードを使っても支払いができない人が急増してきていて、各金融機関のクレジットカード部門が抱える不良債権が時限爆弾的にどんどん大きくなっているというのです。

まさに私が言うところの金融危機の第2フェーズである「不良債権の償却」に相当する事態です。もちろん、クレジットカード以外にも、不良債権(バッドアセット)は存在しているのは確実です。今後、それらが顕在化し、あらゆる「バッドアセットの切り落とし」を迫られることになるのです。

シティグループは日興コーディアルとの合併の延期を発表しました。世界的な金融不安が続く中、システム統合や事務作業の負担が重いと判断し、グループの収益基盤の強化を優先するためということです。

日興コーディアルはすでにシティグループの傘下にあるので、今回の合併延期がどれほど大きな意味を持つかは分かりませんが、とにかく今はそれぞれが収益基盤を築くことに専念するべき、という姿勢は基本的に正しいと思います。

なお、金融危機は次の3つのフェーズを経て推移します。第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却、第3フェーズは銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産です。未曾有の世界不況の嵐が吹き荒れる中、どうしても個々の派手な事象に目を奪われがちになりますが、世界経済の全体像をしっかりと把握し、いま金融危機はどの段階にあるのかという点を認識しておくことが大切だと思います。



講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

10月19日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第67回 『財政拡大政策は効くの???』

米国発の金融危機により、世界中の株式市場はパニック状態に陥り、なす術もなく世界中の株価が大きく下落しています(まさに、現在、進行中です)。また、「金融危機」というのは「金融の世界」だけに留まることは稀であり、(ある程度、「収まった」と思っても)実体経済を巻き込んだ不況(または、恐慌)を引き起こすことが多いため、金融的なセーフティネットとともに、景気に対する手当が必要と考えられています。

そういう意味では「財政拡大政策は重要な位置を占めている」と思われています。

しかし、従来型の財政(拡大)政策は、いくつかの理由により、基本的に実体経済に影響を及ぼすことは少ないと考えています。

まず、基本的に「財政政策によって景気を回復させる(つまり、「GDPを増加させる」)ことが可能なのか」という根本的な疑問があります。

このような疑問に対して、そもそも財政政策とは「財政支出を増加させる」ことによって(少なくとも政府が支出をするわけだから、その政府支出分の)有効需要を増やすことなので、乗数効果により(または、乗数効果がなくても)、GDPを増加させる効果があると信じられています。

確かに、財政政策を行えば、政府が支出する分の有効需要は増加すると考えられます。しかし、政府が支出するには「財源」が必要になります。全てを、いわゆる「埋蔵金(特別会計により蓄えられている資金など)」で行う場合を除いて、政府支出の財源としては「増税を行う」、もしくは、「新たに国債を発行する」の2つの方法しかありません(今回は「埋蔵金」を多く使用するようですが・・・)。

とはいえ、ここで「増税を行う」という選択肢は、そもそもあり得ません。

「増税」とは家計の可処分所得を減少させることになるので、「可処分所得=消費+貯蓄」であることを考慮すれば、家計の消費や貯蓄の減少をもたらすことになってしまいます。「貯蓄の減少にだけに影響を及ぼす」ということであれば(この場合、「家計貯蓄が企業投資にうまく流れていない」ということを認めるならば)、民間部門が消費や投資を行わない分、政府が代わって消費をすることになるため「有効な政策」とみることも可能です。しかし、可処分所得の減少は、現実的には家計消費の減少に寄与することになるため、そうでなくても少ない家計消費を、さらに減退させることになり、政府の追加的な財政政策の効果は見込めないことになります。

では、「新たに国債を発行する」という方法ではどうでしょうか。

この方法の場合、政府は「家計が、貯蓄に回していうる資金の一部を、国債へ振り当ててもらう」という方法なので、「可処分所得=消費+貯蓄」のうち、「貯蓄」に入っている資金の"種類"が変化するだけであり、家計消費は減少しないことになります。その意味で「国債発行による財源を使用し、財政政策を行う」ということは有効のように思えます(ただし、貯蓄として企業の資金調達に振り向ける資金は減少するので、金融セクターがしっかりと機能しているような社会では、逆に、GDPを減少させる可能性は否めません。が、現状は金融システムが機能不全状態なので、その意味では「国債発行による財政政策」は有効のように思えます)。

ところが、国債発行による財政政策には2つの問題点があります。

一つ目は、国債残高が大量に存在する場合、追加的に「国債を新たに発行する」ことになるとすれば、デフォルトリスクが高まることから、市場金利が高くなる可能性があるという問題です。金利が高くなれば、企業の設備投資行動に悪影響を与えることから民間の有効需要を減退させることになり、政府支出の拡大分を投資行動の減退によって相殺するので、財政政策を無効にすることになります(これについては「現実には起こらない可能性が高い」と思いますが・・・)。

さらに2つ目として、「国債」というのは「借金」であるということに起因する問題です(こちらの問題の方が重大だと思います)。

国債といえども、それは借金であり、当然に「返済」される必要があります。しかも、その返済原資は国民の税金であるはずなので、「国債の返済」は「将来の増税」によって賄われることになります。つまり、現時点での増税ではなく、支払いを単に「先延ばしにした」だけに過ぎず、将来時点では「必ず増税になる」ことは明らかなのです。したがって、政府支出によってGDPが増加したとしても、その増加分を家計は「消費」に回さず、将来の増税に備えて「貯蓄」する可能性が高いわけです。

特に「将来の福祉政策にはおカネが必要であり、将来増税(消費税の引き上げ)もやむなし」というような民間の政策委員会による諮問を見せつつ、現時点において「減税」や「政府支出」を拡大したとしても、家計の財布(消費)の紐はかなり硬くなり、将来の負担増を見込んで、逆に消費を減少させ、貯蓄を増やすことになる可能性があります。

そうなると国全体としての有効需要は、財政拡大政策を行う前と後で「変化がない」というよりも「悪化する」という可能性さえあります。

以上のように、「国債発行による財政拡大政策」は、一見、景気を活性化させるように思えますが、実は「全く効果がない」、または、「さらに状況を悪化させる」ものであり、一時的な「気休め」にもならないといえます。

効果があるとすれば、家計の貯蓄を消費に回させるような政策であり、そのためには、「一過性」を狙うのではなく、家計の「将来不安を取り除く」ことが大切になります。その意味で現時点において大切なのは、年金財源を充実させ、介護に「国民負担を求めない」というような手当を考えることであり、それによって家計が「将来不安のために貯蓄をしなくて良い」と思うような政策を行うことなのです。そのために「現時点で財源が必要である」というならば、国債を発行してもよく、その財源により財政政策を実施する価値があるといえます。

例えば、福祉関係のサービスを充実させるために「社会的企業」などがイニシャル・コスト(設備等の耐久財や固定資産購入に必要となる費用)がない場合、その財源として国債を発行しても、当該事業によって「国民が将来不安を取り除かれる」のであれば、家計は消費を減らすことはなく、逆に、将来不安がない分、(貯蓄にしておく必要がないので)消費を増加させるものと思われます。

したがって、世界大恐慌(1929年)の対処として、当時行われたニューディール政策(1933年)のような「バラマキ型」の財政政策は、現在においては無効であり、逆に、害さえあると思われ、経済を向上させることはないと思われます(ブッシュ政権が先頃行った「バラマキ減税」も同様です)。

もし、財政政策を行うのであれば、「急がば回れ」的な政策として「国民の将来における生活不安を取り除く」ための政策である必要があり、それによって家計貯蓄を消費に振り向けさせる仕組みを作り上げることなのです。そうでなければ、財政政策を行う意味がないといえるでしょう。

講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸 グローバルマネー・ジャーナル第73号、いかがでしたでしょうか。

今でも十分に安いと言える株式市場ですが、更なる下げを見越した空売りによる一層の市場混乱が起きているようですね。

日経平均7千円割れという異常事態に、政府は昨日、一週間前倒しで新規空売り規制を実施しましたが、これは前述の「一層の市場混乱」を抑えるだけに過ぎず、外国人投資家の現物引き上げを止めることには繋がらないため、株価下落抑止の効果としては乏しいのではないかと思います。

この暴落を大チャンスとして投資を始める方も出てきているようですが、不動産はじめ、多くの業界に光明が全く見えない現在、更なる下げを予測しておくことも必要です。

確かに歴史的に見れば仕込みのタイミングではありますが、資金は一度に投資せず、時間分散(毎月少しずつ買い増すなど)するようにしましょう。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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