もはや「金融機関」とは言えない経営状態
16日、米大手銀シティグループが発表した7―9月決算は、最終損益が28億1500万ドル(約2800億円)の赤字、また同日発表したメリルリンチも51億5200万ドル(約5100億円)の最終赤字でした。赤字額は予想の範囲内でしたが、損失は景気減速を反映して個人向け融資など幅広い資産に拡大しており、両者は公的資金の注入を受け入れる方針を明らかにしています。
シティグループ、メリルリンチを始め、今回米国の金融機関は押し並べて公的資金注入を受け入れる姿勢を示しています。今の状況からすると、公的資金の受け入れを断るだけでも、その金融機関に対する不安が広がってしまう可能性があるからだと思います。最悪の場合、不安心理に煽られてサイバー取り付け騒動に発展することも十分に考えられます。
以下の図表は昨年から今年にかけての米大手金融機関の損失額の推移を見たものです。
この図表からわかるように「見るも無残な結果」になっています。シティバンク、メリルリンチ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースといった米国を代表する大手金融機関が、いずれも5四半期連続で莫大な損失を計上しているという始末です。もはや「金融機関」と呼ぶに値しないレベルです。
2008年第3四半期の結果を見ると、メリルリンチの損失額が最も大きくなっていますが、いずれの金融機関も100億ドル前後の損失額を計上しており、どんぐりの背比べ状態です。昨年からの結果を通してみると、JPモルガン・チェースなどもひどい有様ですが、やはりシティグループとメリルリンチという2社が一際大きな損失を計上していることが分かります。
今回の赤字決算を見ても散々な結果だったと言えますが、金融危機という恐ろしいゲームはまだ始まったばかりです。今は流動性危機という第1フェーズでしかありません。これから不良資産の償却という第2フェーズを迎え、さらに資本が毀損していきますから、米大手金融機関にとっての本当の正念場はまさにこれから始まると言っても良いでしょう。
●不良資産爆弾の第1弾は、クレジットカード?
今後の展開を不安視されている米金融機関について、10月20日号BusinessWeek誌では1つ具体的な不安材料を指摘する記事が掲載されていました。そのタイトルは「THE CREDIT-CARD CLOWUP AHEAD」というものです。「クレジットカード」という不良債権の爆弾が炸裂するかも知れないということです。
この記事では、シティバンク、バンク・オブ・アメリカなどの米大手金融機関ではクレジットカード部門が極端に肥大化していると指摘しています。この金融危機の中、クレジットカードを使っても支払いができない人が急増してきていて、各金融機関のクレジットカード部門が抱える不良債権が時限爆弾的にどんどん大きくなっているというのです。
まさに私が言うところの金融危機の第2フェーズである「不良債権の償却」に相当する事態です。もちろん、クレジットカード以外にも、不良債権(バッドアセット)は存在しているのは確実です。今後、それらが顕在化し、あらゆる「バッドアセットの切り落とし」を迫られることになるのです。
シティグループは日興コーディアルとの合併の延期を発表しました。世界的な金融不安が続く中、システム統合や事務作業の負担が重いと判断し、グループの収益基盤の強化を優先するためということです。
日興コーディアルはすでにシティグループの傘下にあるので、今回の合併延期がどれほど大きな意味を持つかは分かりませんが、とにかく今はそれぞれが収益基盤を築くことに専念するべき、という姿勢は基本的に正しいと思います。
なお、金融危機は次の3つのフェーズを経て推移します。第1フェーズは流動性危機、第2フェーズは不良資産の償却、第3フェーズは銀行の貸し渋りによる事業会社の倒産です。未曾有の世界不況の嵐が吹き荒れる中、どうしても個々の派手な事象に目を奪われがちになりますが、世界経済の全体像をしっかりと把握し、いま金融危機はどの段階にあるのかという点を認識しておくことが大切だと思います。
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