今こそ日本も国家ファンドを作って投資を開始するべき
10日、シンガポール政府は、政府系ファンド・テマセク・ホールディングスの投資資産の時価評価額が、08年の3月末から8か月間で580億シンガポールドル(約3兆5,200億円)、割合では31%減少したと発表しました。同社は07年末から08年の始めにかけて米証券大手メリルリンチや英銀大手バークレイズに投資しており、金融危機による投資資産の含み損の拡大が懸念されています。
先日、テマセクHDがシンガポールのリー・シェンロン首相夫人であるホー・チン最高経営責任者(CEO)の退陣を発表した時に私が言及したことが、早くも現実になったようです。このタイミングで首相夫人がCEOから退陣するというのは、テマセクHDが痛手を被っており、その影響が「首相に及ばないように」という配慮ではないかと述べたのですが、まさにその通りでした。私からすれば、せこい対策をするものだと言いたくなります。
世界の主要指数の下落率42%に比べれば、資産減少率は悪くないとテマセクHDは主張しているようですが、苦しい言い訳でしょう。テマセクHDと言えば、GIC(シンガポール政府投資公社)と並んで、かつては毎年9%近く伸び続けていた優良ファンドのチャンピオンです。景気が悪くなってからも強気にメリルリンチやバークレイズに投資したわけですが、それが裏目に出ています。「少々自信過剰で失敗してしまった」というのが正直なところでしょう。
テマセクHDに限らず、この金融危機で世界の主要な政府系ファンド(SWF)も軒並み損失を被りつつあります。ですが、だからと言って極端に縮こまる必要はないと私は思っています。世界的な金融危機によって、落ちるところまで落ちているという今の時期だからこそ「買い時」だと判断できるものが数多くあります。
特に日本は、今のタイミングで国家・政府系ファンドを設立して活用していくべきだと思います。資源株、農業株、穀物株を買うのもいいでしょう。あるいはアイスランドやルーマニアを買うのも有効です。こうした国を救済することで、タダも同然の価格でその国にある大きな利権を受け取ることができるようになります。また話題のロシア・ガスプロム社を救済するのも策です。今ガスプロム社が必要としているのは3,000億円と言われています。ロシアだけを見ても、1,000億円程度で充分に見返りが見込める投資先がたくさんあります。
日本がIMFに10兆円の資金を提供しても、誰も有難いとは思ってくれません。単に10兆円を提供して、それでおしまいです。IMF経由ではなく、直接アイスランドを救済すれば、感謝もされるでしょうし、アイスランドの利権を手に入れることができ、将来、日本の国難を克服することにもつながります。日本の外務省にもこのような発想を期待したいところです。
●今ドバイが小休止するのは良いことだ
12日、世界最高層のビル「ブルジュ・ドバイ」の建設などで知られるアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの政府系ディベロッパー、エマールは着工済み案件の完成に集中し、新規案件の着工を見合わせると発表しました。
ドバイ開発をけん引してきたエマールの新規案件停止で、ドバイの開発プロジェクトが一段と冷え込むのは避けられない様相ですが、私は基本的に今回の方針には賛成です。建設中のものを完成させるのは非常に重要なことだと思います。建設途中のまま放置されてしまうと、その都市の人々の気持ちを滅入らせてしまうからです。それだけは絶対に避けるべきだと思います。
ドバイに関して言えば、取りあえず「ブルジュ・ドバイ」を完成させること、それで十分でしょう。砂漠の奇跡と言われたドバイですが、今のタイミングで「小休止」するのは良いことだと思います。1,000メートルのビルを作るというのは、スフィンクスやピラミッドを作るのと同じ様なものです。話題にはなりますが、実質的な経済基盤に成り得るものではありません。
日々人が訪れて、情報が集まり、資金も集まってくる。それによってしか実質的な経済は繁栄しません。今ドバイが小休止することで、実質的な経済基盤を作り上げるために、正しい方向転換ができるのではないかと私は見ています。
07年末から08年にかけての主な中東系政府ファンドの資産残高を見ると、カタール投資庁・クウェート投資庁は減少幅が小さく踏ん張っていますが、アブダビ投資庁は約4,500億ドルから3,200億ドルまで大きく資産を減少させているのが分かります。
ドバイの政府系ディベロッパーとアブダビ投資庁がダウンしているわけですが、私はドバイの活路はここにあると思います。これまでのように唯我独尊で突き進むのではなく、アブダビとの関係性を修復し、上手く互いに協力できれば、そこにドバイ復活のシナリオが見えてくるのではないかと思います。
私自身、機会があれば、今年はぜひドバイを訪れて、ドバイの現状を見てみたいと考えています。
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