優良政府系ファンドが失速、その時日本がすべきこと|株式・資産形成講座メルマガ

  2009/3/4(水)  
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優良政府系ファンドが失速、その時日本がすべきこと

今こそ日本も国家ファンドを作って投資を開始するべき

10日、シンガポール政府は、政府系ファンド・テマセク・ホールディングスの投資資産の時価評価額が、08年の3月末から8か月間で580億シンガポールドル(約3兆5,200億円)、割合では31%減少したと発表しました。同社は07年末から08年の始めにかけて米証券大手メリルリンチや英銀大手バークレイズに投資しており、金融危機による投資資産の含み損の拡大が懸念されています。

先日、テマセクHDがシンガポールのリー・シェンロン首相夫人であるホー・チン最高経営責任者(CEO)の退陣を発表した時に私が言及したことが、早くも現実になったようです。このタイミングで首相夫人がCEOから退陣するというのは、テマセクHDが痛手を被っており、その影響が「首相に及ばないように」という配慮ではないかと述べたのですが、まさにその通りでした。私からすれば、せこい対策をするものだと言いたくなります。

世界の主要指数の下落率42%に比べれば、資産減少率は悪くないとテマセクHDは主張しているようですが、苦しい言い訳でしょう。テマセクHDと言えば、GIC(シンガポール政府投資公社)と並んで、かつては毎年9%近く伸び続けていた優良ファンドのチャンピオンです。景気が悪くなってからも強気にメリルリンチやバークレイズに投資したわけですが、それが裏目に出ています。「少々自信過剰で失敗してしまった」というのが正直なところでしょう。

テマセクHDに限らず、この金融危機で世界の主要な政府系ファンド(SWF)も軒並み損失を被りつつあります。ですが、だからと言って極端に縮こまる必要はないと私は思っています。世界的な金融危機によって、落ちるところまで落ちているという今の時期だからこそ「買い時」だと判断できるものが数多くあります。

特に日本は、今のタイミングで国家・政府系ファンドを設立して活用していくべきだと思います。資源株、農業株、穀物株を買うのもいいでしょう。あるいはアイスランドやルーマニアを買うのも有効です。こうした国を救済することで、タダも同然の価格でその国にある大きな利権を受け取ることができるようになります。また話題のロシア・ガスプロム社を救済するのも策です。今ガスプロム社が必要としているのは3,000億円と言われています。ロシアだけを見ても、1,000億円程度で充分に見返りが見込める投資先がたくさんあります。

日本がIMFに10兆円の資金を提供しても、誰も有難いとは思ってくれません。単に10兆円を提供して、それでおしまいです。IMF経由ではなく、直接アイスランドを救済すれば、感謝もされるでしょうし、アイスランドの利権を手に入れることができ、将来、日本の国難を克服することにもつながります。日本の外務省にもこのような発想を期待したいところです。


●今ドバイが小休止するのは良いことだ

12日、世界最高層のビル「ブルジュ・ドバイ」の建設などで知られるアラブ首長国連邦(UAE)ドバイの政府系ディベロッパー、エマールは着工済み案件の完成に集中し、新規案件の着工を見合わせると発表しました。

ドバイ開発をけん引してきたエマールの新規案件停止で、ドバイの開発プロジェクトが一段と冷え込むのは避けられない様相ですが、私は基本的に今回の方針には賛成です。建設中のものを完成させるのは非常に重要なことだと思います。建設途中のまま放置されてしまうと、その都市の人々の気持ちを滅入らせてしまうからです。それだけは絶対に避けるべきだと思います。

ドバイに関して言えば、取りあえず「ブルジュ・ドバイ」を完成させること、それで十分でしょう。砂漠の奇跡と言われたドバイですが、今のタイミングで「小休止」するのは良いことだと思います。1,000メートルのビルを作るというのは、スフィンクスやピラミッドを作るのと同じ様なものです。話題にはなりますが、実質的な経済基盤に成り得るものではありません。

日々人が訪れて、情報が集まり、資金も集まってくる。それによってしか実質的な経済は繁栄しません。今ドバイが小休止することで、実質的な経済基盤を作り上げるために、正しい方向転換ができるのではないかと私は見ています。

07年末から08年にかけての主な中東系政府ファンドの資産残高を見ると、カタール投資庁・クウェート投資庁は減少幅が小さく踏ん張っていますが、アブダビ投資庁は約4,500億ドルから3,200億ドルまで大きく資産を減少させているのが分かります。



ドバイの政府系ディベロッパーとアブダビ投資庁がダウンしているわけですが、私はドバイの活路はここにあると思います。これまでのように唯我独尊で突き進むのではなく、アブダビとの関係性を修復し、上手く互いに協力できれば、そこにドバイ復活のシナリオが見えてくるのではないかと思います。

私自身、機会があれば、今年はぜひドバイを訪れて、ドバイの現状を見てみたいと考えています。


講師紹介
大前研一
ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長
大前研一

2月15日放送
「大前ライブ」より抜粋し、一部再構成したものです。
大前研一学長語録
 ブレークスルー経済学
「経済学」というと敬遠する人が多いのですが、実際には「論理的に物事を考える」際には、非常に便利な道具(ツール)です。ここでは、毎回、金融・投資環境に関する事柄を経済学的に解説していきます。是非この機会に、使い方も含めて、習得していただけたらと思います。

第84回 『ゼロ金利でも「米国債利回り上昇」って、どういうこと?』

リーマン・ショック以降、各国政府は財政的な手当てと同時に、各中央銀行も「超」が付くほどの金融緩和政策を実施しています。それによって米国も、日本と同じように政策誘導金利を引き下げ、FFレート(フェデラル・ファンドレート)を0.0%~0.25%になるように金融政策を行っています。

日本も政策金利である「無担保コール翌日物」を0.1%になるように金融政策を行っているので、若干の違いはありますが、両国とも、ほとんど「ゼロ金利政策」と言っていい状態です。

「金利を低め誘導する」ということは、その言葉の通り、金利が低くなるように中央銀行が働きかけるわけですから「金利」は低下します。しかし、この場合の「金利」とは、一般の貸出金利や国債利回りなどではなく、「インターバンク市場の金利」を指しています。

「インター」とは「相互間の」という意味ですから、「インターバンク市場」とは「銀行相互間の市場」という意味になります。つまり、銀行間での取引に使われる金利を「ゼロ金利にする」ということであり、一般の人々が接する金利や利回りが「低下する」とは限らないのです。

とはいえ、教科書的には「金融緩和政策をすれば、市場金利が低下し、事業会社等の設備投資などがしやすくなる」と考えられています。したがって、「事業会社等の設備投資がしやすくなる」ということであれば、やはり、貸出金利などが「下がる」という意味だと理解できます。

これって「正しいのか?」と問われれば、答えは「正しい」とも「正しくない」とも言えることになります。


◆「正しい」という回答

中央銀行は「銀行の銀行」と言われるように、銀行以外の一般の事業者(および個人)との直接の取引は行いません。したがって、金融緩和政策といっても、所詮、銀行に対して資金を潤沢になるように調節するだけであり、中央銀行が直接に資金を一般の資金不足主体(つまり、「事業者」や「個人」)に供給するわけではありません。

しかし、銀行の資金が潤沢になるということであれば、そもそも銀行は「貸出」を生業としている商人ですから、貸出を増加させることが可能になるので、資金不足主体に資金が供給されるはずです。

仕組みとしては以下のようになっています。

中央銀行は、世の中の状態を見ながら、同時に、銀行の資金繰り状況を見ながら、世の中の資金過不足を観測しています。そこで「資金が不足しそうだ」と思えば、インターバンク市場に必要以上の資金供給を行うことになります。そうすると、銀行にとっての資金調達金利が低下することから、銀行は採算面より、貸出の増加を検討します。その結果、銀行貸出を実行することになれば、資金不足主体に資金が流れ、資金不足が解消します。

したがって、中央銀行がインターバンク市場に必要以上に資金供給を行うとインターバンク市場は低下するので、銀行は貸出金利を引き下げるだろうと考えられます。また、銀行は貸出の他に有価証券運用なども行っているので、資金調達金利が低下すれば、例えば、国債の購入が増加し、国債の単価が高騰するため、国債利回りは低下することにつながります。

このようにして、中央銀行の金融緩和政策により、インターバンク市場の金利が低下するので、銀行は調達金利が低下することにより、各種の金利や利回りが低下すると考えることができるのです。


◆「正しくない」という回答

確かに「中央銀行の金融緩和政策により、インターバンク市場の金利が低下する」のは正しいのですが、「だから」といって、「銀行が貸出の増加を決定する」とは限りません。しかも、「貸出の増加」を決定した場合でも、貸出金利を"引き下げて"貸し出すとは限らないのです。

金融緩和政策を行うような時期は、概ね、景気の下降期です。つまり、経済的に不安定な時期であり、事業会社の倒産等が頻繁に起こるような時だけに、銀行としても貸倒リスクが高まるような時期といえます。

貸出金利は銀行の資金調達金利(インターバンク市場金利)だけで決定されるわけではなく、貸倒リスク等のプレミアムを上乗せして決定されます。したがって、調達金利が低くても、貸倒リスク・プレミアムの方が、より高く見積る必要がある場合には、全体としての貸出金利は高くなることがあるわけです(というか、結構高い状態になることが一般的です)。

また、国債についても同様に、金融緩和政策を行っていても、リスク・プレミアムが上乗せされれば、国債利回りが上昇することもあるのです。

現在、各国とも財政支出を使って有効需要を高める政策に取り組んでいます。その際、その財源を増税に求めることはできません(増税すれば、その分、消費者サイドの有効需要が低下することになります)。したがって、国債の増発で賄うことになるのが一般的です。といっても「国債」は借金ですから、返済可能性が問題になります。返済可能性が疑問視されると、「返済されない借金を受ける人はいない」ことから、国債を投げ売る人が出てきます。

また、「それでも買おう」と言う人が出てきても、ある程度安くないと買わないわけであり、国債の価格は暴落し、利回りは高騰することになるのです(債券価格と利回りは逆に動くことになります)。つまり、返済可能性が少ない分、リスク・プレミアムを高めないと買ってくれないということになるのです。

現状、オバマ政権は「バラマキ」とも取れるような財政支出計画を出しています。そのための財源を国債に求めているので、市場はそれに敏感に反応した形なのです。大統領は「任期中には半減させる」といっていますが、市場はそれにはあまり反応していないということなのでしょう。


講師紹介
前田拓生
前田拓生(Takuo Maeda)

ビジネス・ブレークスルー大学院大学オープンカレッジ
株式・資産形成講座 講師
高崎商科大学大学院 高崎経済大学経済学部 他で
「金融論」関係の講義を担当。
著書:「銀行システムの仕組みと理論」大学教育出版
編集後記
 編集後記
事務局 一戸
グローバルマネー・ジャーナル第90号、いかがでしたでしょうか。

先週末、当ビジネス・ブレークスルーで問題解決力の講師をされている斎藤顕一教授の講義をお聴きする機会がありました。

斎藤教授は昨今の世界不況に触れ、この不景気を反映し多くの企業が倒産被害にあっているが、実は早めに問題点を分析、発見しておくことで救えた企業も多いのではないか、その意味ではそもそも倒産する必要の無かった企業までがそうした状況に見舞われているとおっしゃっていました。

また我々はとかく物事を十把一絡げで判断する傾向があるが、業界が下火であることを理由にただ悲観するのではなく、そこをもっと分解して考えることで、既存事業の中でも利益の上がるものに集中したり、新しいユーザーニーズを探ることにより得られるチャンスが必ずあると話されていました。

企業に勤める者としてはこうした視点で顧客満足を満たす努力が必要ですし、一方投資家としてはこのようなファクトに基づく努力を行っている企業を見つけ出すことが大切なのだと感じました。

来週のグローバルマネー・ジャーナルもお楽しみに!    

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