景気底打ちというには、まだ早すぎる
27日の米株式市場でダウ工業株30種平均は11営業日続伸。米国景気底打ちへの期待感を背景に急上昇を見せたとのことです。
とはいえ、つい先月には3連続下落後、中1日の上昇を挟んで更に4連続下落したという事実もあり、急上昇したからといって短絡的に「景気底打ちへの期待感」などというのは、いい加減過ぎると思います。
結局こうした小さな動きというのは、景気や株式市場が本質的に変わったからではなく、人間の「心理」的な部分の影響を強く受けています。そういった意味では今回の急上昇を持って景気回復への兆しと考えるなど、信じるに値しないと私は見ています。
実際、08年年初以降のダウ工業株30種平均の推移を見てみると、いかにダウ工業株30種平均が短期的な騰落を繰り返しているか、よく理解できます。08年年初には13,000ドルだったダウ平均は、金融危機を受けて夏から急落し、一気に8,000円を割り込みました。その後、09年3月には7,000円も下回るという事態になりました。現在、その水準からは何とか脱したという状態になっています。
3月を基準にして現在の状況を回復傾向と見る人もいるようですが、まだまだ「もみ合い」状態だと私は見ています。ダウ平均の対前日比騰落幅を見ても、未だに1日で200ドル前後の値動きがあることも珍しくありません。昨年の秋、1日で800ドル前後上下したという「大地震」レベルの振れ幅はさすがに収まっていますが、それでも「震度5」レベルの強震が続いているような状況だと私は思っています。
また、本当の意味で金融危機が去ったと言うには、雇用情勢の側面から見ても甘いと言わざるを得ないと私は見ています。
●米国の歴史上、「雇用なき回復」はない
バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は13日の米議員との会合で、米経済が「雇用なき回復に直面する可能性がある」との認識を示唆しました。議長と面会したシェルビー上院議員がCNBCテレビとのインタビューで、議長の認識を明らかにしています。シェルビー議員によると「雇用なき回復に陥る可能性があるか」との質問にバーナンキ議長が「それはあり得る」と答えたということです。
この時、バーナンキ議長の脳裏によぎったものは何だったのか、正直に言うと私には理解できません。というのは、「雇用なき回復」は一般論としては成立するものですが、過去数十年の歴史を見る限り、米国においては当てはまった試しがないからです。
まず一般的に「雇用なき回復」は次のようなロジックに従います。
企業業績が悪化
↓
企業がレイオフを実施
↓
企業業績の回復
↓
株式市場の回復
英国などはこの一般的なロジックに準じた動きを見せることが多い、と言えるでしょう。場合によっては、企業の業績回復を織り込んで、株式市場が先に反応して上昇し始めるという状況もよく見受けられます。
ところが米国の場合には、この理屈とは反対の動きをしています。米国の失業率とダウ平均の推移を見ると、この数十年間、失業率が上昇すると株価が下落するというパターンを見せています。特に最近の10年間は顕著な例だと思います。
96年から00年にかけて大きく株価が上昇すると、反比例するように失業率は低下しています。00年から02年、02年から07年という期間でも同じような山と谷を繰り返しています。そして、07年・08年から現在にかけても、株価が急落すると同時に失業率が急騰するという見事に「反比例の動き」を見せているという状況です。
米国においてこのような動きを見せる要因は、国内消費が米国経済の7割を担っているからだと思います。そのため、失業者が増えるとなかなか景気が回復しないという状況に陥るのでしょう。さらに現在の状況は、金融危機によって銀行が傷ついていて、クレジットやローンを組みにくい状態ですから、なおさらだと思います。
私が記憶する限りでは、数ヶ月という短期的なスパンで見ると、米国でも「雇用なき回復」という状態になったことがあります。しかし、長期的なスパンではその例はありません。経済学者でもあるバーナンキ議長が、「何を根拠にして今回のような発言をしたのか」について、私としては「きちんとした証拠を提出して欲しい」と言いたいところです。
おそらく、余りにも失業率が高くなってしまった焦りから、「失業率が上がっても景気は回復する」と言ってしまったというのが真実ではないかと思います。あるいは、金融的な対策に追われていて失業問題についてはギブアップ気味になっているという可能性もあるかも知れません。いずれにせよ、今回のバーナンキ議長の発言を真に受ける必要は全くないと私は思っています。
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