世界経済の大幅な縮小を予想するビル・グロス氏
2008年に米リーマン・ブラザーズが破綻して間もなく2年が経過します。米国の債券運用会社ピムコを率いるビル・グロス氏は昨年、最大で5年間は世界経済を動かし続ける3つの力として、「負債の削減」「グローバル化の後退」「規制の復活」を提唱しました。
英語の雑誌等を読んでいると、「DDR」という単語を見かける機会が数多くあります。当初、単語の意味が分からなかったのですが、グロス氏の提唱する「負債の削減」「グローバル化の後退」「規制の復活」の頭文字をとった造語だと分かりました。
マルチプル経済の中でレバレッジ(leverage)をかける方向に動いていた経済が、逆の方向へ向かいつつあるというのが、「De-leverage」(負債の削減)です。そして、推し進められていたグローバル化(globalization)は「De-globalization」(グローバル化の後退)の動きを見せ、大きく規制緩和に向かっていた流れは再び政府による規制が必要だという、「Re-regulation」(規制の復活)という方向へ向かいつつあるとのことです。
私としてはいずれの意見にも反対ですが、ビル・グロス氏は「世界経済が大幅に縮小せざるを得ない」という判断をしているということでしょう。彼が率いるピムコの投資方針も、これに則ったものになるはずです。
●オバマ米大統領のカリスマ・人気は下降線の一途
オバマ米大統領は6日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで演説し、雇用創出と景気刺激を目的に、今後6年間で鉄道や道路、空港などのインフラ整備に計500億ドル(4兆2000億円)を投資する方針を明らかにしました。また8日には、オハイオ州のクリーブランドで演説し、企業の研究開発費への税控除の恒久化や中間所得層への減税措置の延長など今後10年間で総額1000億ドル規模の減税を行う案も発表する見通しとのことです。
鉄道、道路、空港整備など、オバマ米大統領が演説したインフラ整備をまともにやろうとすれば、全く金額が足りないと私は思います。正直、最近のオバマ米大統領を見ていると私としては首を傾げたくなることが多くあります。
ブッシュ政権下で導入された高所得層向け優遇税制措置を廃止することにしても大きな効果があるか疑問に思いますし、これらが「雇用」に結びつくとも思えません。このタイミングで今期の予算を通過するとはとても思えないことを発表しているのは、おそらく中間選挙対策のためというところでしょう。
2010年9月13日号のTIME誌には、オバマ米大統領を評して、「Mr. Unpopular」という見出しが大きく掲載されていました。私も今回のウィスコンシン州ミルウォーキーでの演説を聞いていましたが、かつての「カリスマ性」は全く感じられませんでした。オバマ人気は下降線をたどり続け、人気度も半数割れになってしまったようです。
あと2ヶ月ほどで米国では中間選挙が行われますが、民主党離れ・オバマ離れの動きを止めることは難しいでしょう。民主党議員の中にも、オバマ米大統領の応援演説は遠慮したいという動きがあるとも聞きます。オバマ米大統領にとっては非常に厳しい状況だと言えるでしょう。
●ギリシャ・ショックの次は、アイルランド?スペイン?
アイルランドが経営破綻したアングロ・アイリッシュ銀行への追加支援で今年の財政赤字の国内総生産(GDP)に対する比率が従来予測の11%台から約20%に上昇する見通しとなったことが分かりました。
アイルランドの経済危機はもう過ぎ去り、優秀なV字回復を見せていると言われていた矢先、このような事態になってしまいました。対GDP比で20%という財政赤字になると、一躍ワーストワンです。
いわゆる「ギリシャ・ショック」の後、スペイン、ポルトガル、特にイタリアに飛び火するのではないかと危惧されていましたが、このアイルランドのニュースで一気に「アイルランド・ショック」になる可能性すらあると思います。非常に重要な局面を迎えていると感じます。
同時にスペインも厳しい状態になっていて、サパテロ首相が悪戦苦闘している様子が伺えます。スペイン下院は9日、政府による労働市場改革法案を可決しています。改革案は労働時間や給与など従業員の待遇の柔軟運用や経済的理由での解雇をしやすくする措置などが柱となっています。
スペインとユーロ圏の平均の失業率を比較すると、ユーロ圏が平均「10%」に対し、スペインは「20%」に達しています。さらに25歳未満の若年失業率はおおよそ「40%」に達するほどですから、これは相当に厳しい状況です。対策を施そうにも、どこから手をつけて良いのか分からないというのが正直な感想ではないかと私は感じています。
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