日本企業の海外投資の感覚は世界から遅れている
国際協力銀行が昨年発表した2010年度の海外直接投資アンケートの調査結果で、海外事業の取り組みを「強化・拡大する」と答えた企業は全体の約83%で、前年と比べて17ポイント増えました。
日本企業が選ぶ中長期的有望事業展開先を見ると、中国、インド、ベトナム、タイ、ブラジル、インドネシア、ロシアと続きます。メキシコやトルコなどが含まれておらず、中南米の国が比較的少なくなっています。
今後成長が見込まれる新興国の代名詞として挙げられている「BRICs」「NEXT11」「VISTA」などに登場する国と比べると、日本企業の意識は遅れていると私は感じてしまいます。
●企業・銀行どちらの側からも、モラトリアム法の延長は避けられない
政府が昨年11月に金融機関を集めて開いた、年末の中小企業の資金繰り支援を要請するための意見交換会。自見庄三郎金融相は今年3月末で期限が切れる中小企業金融円滑化法について「延長も視野に検討している」と強調。金融機関側からは、延長する場合は借り手のモラルハザード(倫理の欠如)を防ぐための適切な見直しが必要との意見が相次ぎました。
2009年12月、亀井静香元金融相がゴリ押しで通した中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)の下、すでに約30兆円という莫大な金額が「貸付条件変更実行額」として積み上がっています。2011年の3月にこの法案の期限が切れれば、金利と元本の返済が求められることになります。
企業の倒産件数の推移を見ると、モラトリアム法が施行されてから企業倒産数は激減していますが、本来ならば倒産するべき企業がモラトリアムによって生き延びてしまっているのですから当然の結果です。もしモラトリアム法を延長しなければ一気に相当数の企業が倒産するでしょうから、「延長」せざるを得ないところでしょう。
さらには言えば、実は銀行自身も危うい状況に追い込まれるのではないかと私は思います。モラトリアム法の期限が切れれば、結局、貸付条件の変更を認められていた中小企業が借金を返済できず、銀行は多額の貸倒引当金を計上する必要が出てくるかも知れません。「貸付条件変更実行額」を考えても、かなり大きな金額になる可能性を否定できないでしょう。
企業、銀行のいずれの側から見ても、このモラトリアム法は延長せざるを得ないと思いますが、日本経済の実力を知るという意味では「敢えて延長せずに何が起こるのか」を見てみるのも一つの手かも知れません。
●日本で総合取引所を設立するための2つの課題
民主党の成長戦略・経済対策プロジェクトチームがまとめた総合取引所に関する提言が昨年末明らかになりました。提言は政府に対して「政府は強いリーダーシップで取り組むべきだ」と指摘。既存の取引所が再編に消極姿勢をとり続ける場合は、総合取引所を新たに設立して各取引所から業務の委任を受ける「新設方式」も選択肢の1つであると強調しました。
総合取引所を新設するということは、東京・大阪・名古屋・福岡・札幌にある各取引所を1つにするという側面と共に、株式から金や大豆などの穀物・農産物などのコモディティなども含め、先物取引まで全てひとまとめに扱うということを意味しています。
中国ではまだ各取引所はバラバラに存在していますが、オーストラリアでは事実上1つの総合取引所に統一されています。米国では統一は進行中で、まだ一部役割ごとに取引所が分かれている状況です。
こうした世界の動きを見ても、日本でも総合取引所として統一しようとする理屈は十分に理解できます。ただし、これを推進するためには2つの課題があると私は見ています。
1つは「役所の統一」による利権構造の問題です。今ある取引所を統一するということは、金融庁、農水省、経産省という3つの省庁も統合され1つになります。これは、どこかの役所が権限を失うこと、具体的には天下り先がなくなることを意味しますから、一筋縄では行かないでしょう。それこそ政治家が「リーダーシップ」を発揮して役所の権益を破壊しなければいけません。
もう1つには「システム」の問題です。日本の証券取引所のシステムは相当に古いので刷新する必要に迫られると思います。総合取引所の構想を実現するシステムをどのように実現するか、というのは大きな課題になるでしょう。
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