
この論文から学ぶべき「大前研一メソッド」
<市場の熱狂と、技術の本質的進化を分離して見る>
価格(期待値)はバブルで膨張する。技術の浸透(構造変化)は不可逆。市場の熱狂と、技術の本質的進化を分離して見る。短期の過熱と長期の構造転換を混同しない時間軸思考。
2026年2月25日に時価総額世界最大の米半導体大手エヌビディア社の決算発表が予定されています。「3カ月に1度のビッグイベント」となった同社の決算発表です。決算説明会でのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)の発言も、AI業界全体に影響が波及する可能性があります。AIブームは2026年も続くのでしょうか。BBT大学院・大前研一学長に聞きました。
大前研一(BBT大学大学院 学長 / BOND大学教授 / 経営コンサルタント)
編集/構成:mbaSwitch編集部
AI産業は完全にバブル状態だ。2000年に起きたITバブル崩壊と同じく、いずれ派手に崩壊するから注意が必要だ。すでに兆しはある。AIブームを牽引するエヌビディアの時価総額は2025年6月、約4カ月ぶりに世界首位となった。10月には世界で初めて5兆ドルの大台を突破。IMF(国際通貨基金)の統計によれば、これは日本のGDP(国内総生産)を凌駕する規模だ。しかし、2025年10月に記録した上場来高値から伸び悩み、2025年2月20日時点で約1割減らしている。一時的な調整の可能性もあるが、市場で警戒感が高まっていることは間違いない。
私がAIバブルと判断する理由は一つ。売り上げや利益と時価総額(未上場の場合は株式の評価額)の差が大きすぎるのだ。たとえばChatGPTを擁するOpenAIの2025年末の年換算売上高は約200億ドル(約3兆円)で、利益に至ってはまだ赤字だ。それに対して、企業価値は現在協議中の資金調達が成功したとして、約8300億ドル(約130兆円)だと言われている。
時価総額は「将来得べかりし利益を現在価値に割り戻した額」がベースになっていて、それを超える額は「期待」である。OpenAIが赤字なのは先行投資しているからだが、それを差し引いて考えたとしても、将来得べかりし利益の現在価値は、評価額の約8300億ドルには遠く及ばない。
AIブームで売り上げはこれから爆発的に伸びるはずであり、上乗せされた期待値は妥当だという考えもある。しかし、2つの視点が欠けている。
まずAIは性質上、使えば使うほど価格が下がっていく。消費財は使うほど生み出す価値が減るので買い替えで価格は維持される。また、もともと供給に制限がある商品は、使われると残りに希少価値が出て価格が上がる。しかしAIは逆。使えば使うほど自己学習によって効率化が進み、供給過多になるため、価格は下がるのだ。
AIがそうした性質を孕んでいてもサービスを提供するのが1〜2社の独占や寡占なら、まだ価格をコントロールできる可能性はある。しかし、もはやChatGPT一強の時代は終わった。たとえばグーグルのGeminiは性能への評価が非常に高い。2025年11月に発表されたGemini3を見て、OpenAIのサム・アルトマンCEOは社内に向けてコードレッド(緊急事態)を発令したほどだ。ほかにもイーロン・マスク氏が創設したAIのGrokがジェミニに追随する可能性もある。
さらに業界ではOpenAIの元メンバーが創設したアンソロピックのClaudeも注目を集めている。実は2025年、アンソロピックから私の事務所に「米国で出版した著書のうち2冊を1冊1000ドルで学習させてほしい」と連絡が来た。無断で学習されるよりはよいだろうと承諾したが、律儀に依頼してきたのはアンソロピックだけだ。
米国だけでもいま紹介した企業を中心に有力企業が5〜6社あるが、さらに脅威なのは、米国とAI覇権を争っている中国だ。中国大手VCレジェンド・キャピタルの朴焌成(パク・ジュンソン)氏によると、いま中国にはAIを提供する会社が約100社あるという。
雨後の筍のごとくAI企業が登場しているのは、先行するLLM(大規模言語モデル)を下敷きにして短期・低コストで開発しているからだ。その手法は「蒸留」と呼ばれているが、つまりパクリだ。1年前には中国のDeepSeekが従来の10分の1のコストで開発した高性能LLMを発表して世界に衝撃を与えたが、いまやそのDeepSeekも中国では数ある中の1社に過ぎない。
中国のAIはバックドアで情報を抜かれるリスクがある。ただ、そのリスクがあっても無料でいいものなら使いたいというユーザーは少なくない。これから価格競争が激しくなるのは必然で、米国勢も利用料金を下げざるをえない。ユーザー数はまだ増えるのでAI企業の売り上げは伸びていくが、単価が下がるので利益がそれほど伸びるとは思えない。現在の期待値は、やはり大きすぎるのだ。
注意したいのは、AIバブルはいずれ弾けても、AI自体の普及は進むという点である。AIの活用が広がれば、代替される仕事が増えていく。とくに奪われやすいのは人海戦術で対応している仕事だ。たとえばシステム開発は下請けや派遣のSEに支えられているが、もはや大勢の人員はいらない。先日、AIプログラミングのデモを見る機会があったが、AIと会話しているうちに完成していた。
システム開発だけではない。人手不足の現場系と違って、オフィスワークはAI化で間接人員にも余剰が生じるだろう。米アマゾンは2026年1月、AI導入を背景に全従業員数の約2%に相当する3万人の人員削減を発表した。対象は物流拠点の倉庫ではなく主に本社機能や管理部門である。日本でも同様の動きが広がっていくだろう。
ただ、ビジネスパーソンにとってAIリストラはチャンスでもある。米国のビッグテックはインド系社員が多いが、彼らはリストラされると帰国して起業する。米国企業のメンタリティーを持っているので現地の起業家より成功確率は高いようだ。日本の大企業で居場所を失いそうな人も、同じように地方や中小企業の分野に活路を見いだせばいいのだ。
東京の大企業と地方の中小企業はDXやAIの活用面でまだギャップが大きく、大企業で活躍した人材なら地方で部長や役員、あわよくば社長クラスのチャンスがある。もちろん地方でも部長や役員のポストは限られている。これから大企業で大量のAI失業が発生することを考えると、ボーナスタイムはせいぜい5〜10年だ。ギャップを生かした転職は早いもの勝ちであり、早く決断した人ほど得をするだろう。
オフィスワーカーが余る時代には、企業も発想を変えなくてはいけない。日本の大企業はAI時代を踏まえた全社一丸のリ・スキリングに熱心だ。しかし、何百、何千もの社員にAIを使わせて無策に何かを実現させようとしても、無駄に終わる可能性が高い。日本企業はかつてQCサークルのような、全社的な品質管理・改善活動で成果をあげていたが、みんなで一斉にやるのは、工業化社会の「ものづくり」に向いた手法であり、AIには適さない。
余った人を活用するなら、3〜10人の「タイニーチーム」をつくり社内起業させるといい。DeNAは社員約3,000人のうち1,500人を10人のチームに分け、AIビジネスで新規事業開発させる方法を公開している。芽が出そうであれば、社員に株を持たせる社内起業だ。150社あれば1〜2社は成功してユニコーンに育つかもしれない。1,500人まとめてAIビジネスをやるより、投資効果は高いはずだ。
残念ながら、変革期でチャンスをものにする人ばかりではない。むしろオフィスワーカーの多くはAI失業の憂き目に遭う。そこで問題になるのが生活保障だ。
アンソロピックのダリオ・アモデイCEOは政府が社会保障を担う必要を訴えており、ベーシックインカム(BI)の導入を求める経営者も少なくない。しかし、BIは人間を怠惰にして社会を停滞させると私は考えている。BIでも人は勤労意欲を失わないという社会実験が報告されているが、いずれも期間限定の実験で当てにならない。長期で実施すると人が能動的に働かなくなることは、究極のBIである共産主義で運営されていた冷戦時代の東側諸国を見れば明らかだ。
AI時代は富を再配分する方法を根底から変えるべきだ。現在、企業は法人税、個人は所得税と、フローを課税対象にしている。しかしフローに対する課税は、サービスとお金がスマホで国境を超えてやりとりされる時代に対応できない。Uberは世界各地で利用されているが、どこで利用しても決済はオランダで行われ、利益は税金の安い国に巧妙に移される。どの国もフローを把握しにくいため、租税回避をやりたい放題だ。
富を再配分したいなら、フローからストックへの課税にシフトすべきだ。具体的には、企業・個人とも資産に1%前後の課税をするのだ。資産は海外資産も対象で、国籍のある国が徴収して、資産の置いてある国には一部を還元すればいい。
企業には、時価総額への課税も行う。エヌビディアは高い時価総額を利用してOpenAIなどの取引先に多額の出資をしている。出資したお金はGPUの代金として戻ってくるので、循環取引に近い。お金は実質的に動いていないのに売り上げに計上されるからだ。かくしてエヌビディアは実態より売り上げが膨らみ、時価総額も上昇。そして増えた時価総額を武器にしてまた身内に出資していく。
時価総額に対して年に3〜4回の基準点をつくって徴収し、使用地での売り上げに応じて各国に分配すればいい。米国のカリフォルニア州など複数州で行われているユニタリータックス(全世界合算申告)方式の応用版だ。
グローバルのストック課税の仕組みは、簡単には足並みが揃わないだろう。しかし、現在の仕組みは不公平であり、持続可能でない。近いうちに起きるだろうAIバブルの崩壊が、それに気づくきっかけになることを願いたい。
※この記事は、『プレジデント』誌 2026年2月13日号を基に編集したものです。
大前研一
プロフィール マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)公共政策大学院総長教授(1997-)。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長。豪州BOND大学教授。