今回は「子ども向けプログラミング・探求学習市場」を取り上げます。
小学生の習い事として、プログラミング教室の人気が定着しつつあります。教室でコードを学ぶだけではありません。カヤックグループのゲムトレによる調査では、小学生が「最も遊んでいるゲーム」として挙げた割合は「マインクラフト」が31.8%で首位でした。「Roblox」も2023年の0.9%から2026年には12.7%へ上昇し、3年間で14倍超となっています。これは利用者数そのものではなく、同調査における回答比率の変化ですが、「つくる」「共有する」要素を持つゲームの存在感が高まっていることを示します。
さらに、CA Tech Kidsとテレビ朝日が主催する小学生向けプログラミングコンテスト「Tech Kids Grand Prix 2025」には1万1,554件の応募が集まり、2026年度大会では一部の地域連携大会が「都道府県予選大会」として位置づけられました。地域の自治体や企業・団体を巻き込んだ学びの場も広がっています。生成AIが「コードを書く」作業を代替し始めた今、なぜ子どもの「つくる学び」が活発化しているのでしょうか。人材育成に関わるビジネスパーソンにとって、見過ごせない変化です。
こうした一見バラバラに見える動きの背後に、どのような市場の変化があるのでしょうか。少子化で縮小するはずの教育市場の中で、伸びる市場はあるのでしょうか。成長を支えているのは、習い事需要、受験需要、それとも学校現場の外部支援需要なのでしょうか。実際に数字を見て確認してみます。
まず教育産業全体の姿を確認します。矢野経済研究所によれば、学習塾・予備校、通信教育など主要15分野の市場規模は、2019年度の約2.77兆円に対し2024年度は約2.86兆円、2025年度予測でも約2.87兆円と読み取れます。少子化のなかで規模を維持しているものの、6年間の伸びは3%台にとどまり、全体としてはほぼ横ばいの成熟市場です。
一方、その内側では明確な成長領域が生まれています。コエテコbyGMOと船井総合研究所の調査による「子ども向け情報教育市場」は、2018年の約90.7億円から2024年に約253.8億円、2025年には約352億円へと、7年で約3.9倍に拡大しました。2030年には約1,000億円と、2025年比で約2.8倍への成長が予想されています。民間ロボット・プログラミング教室の拡大に加え、2022年度の高校「情報Ⅰ」必修化と2025年度からの大学入学共通テスト科目化が需要を押し上げていると考えられます。実際、QUREOプログラミング教室は47都道府県に3,000教室以上を展開しており、都市部の先進的な習い事から全国的なインフラへと変わりつつあります。
高校の「総合的な探究の時間」を支援する「探究学習支援サービス市場」も、2022年の約15.9億円から2024年見込みで約35.9億円、2026年予測では約50億円と、4年で約3.1倍という高い成長率を示しています。ベネッセ傘下のデジタルハリウッドは2026年4月、データサイエンス・プログラミング・デザインから選べる探究学習用ICT教材を高校向けに発売し、3年間で300校以上への導入を目指すと報じられました。STEAM教育や探究学習といった学習トレンドにデジタル活用が組み込まれ、企業がそこに商機を見いだす構図です。
通信制サポート校、不登校支援デジタル教材、オルタナティブスクールなどを含む「『多様化する学び』支援サービス市場」も、2021年度の348.5億円から2025年度予測の439.9億円へ26.2%拡大しています。対象範囲が異なるため情報教育市場や探究学習支援市場と単純には合算できませんが、従来の学校教育を補完・代替する学びへの需要も拡大していることが読み取れます。
このような数値的成長の背景には、学習内容の質的な変化とデジタル活用の広がりが存在すると考えられます。かつての教育手法とは異なり、単にプログラミング言語の構文を学ぶ教室だけでなく、ゲーム作りやアニメーション制作など「学びの作品化」を通じた体験型学習が子どもたちの間で高い支持を得ています。学習した内容を自身の作品として表現し、他者からのフィードバックを受けて改善するプロセスは、試行錯誤を伴う深い学びをもたらします。
注目すべきは、この成長が「AIがコードを書く時代」と並走している点です。文部科学省が2026年7月に示した次期学習指導要領の取りまとめ案では、高校のプログラミング授業でコードを書く作業をAIに任せ、構想を練り成果物を検証する「バイブコーディング」を取り入れる方向が示されました。前述のコンテストでも、生成AIの利用を一律に禁止するのではなく、「誰がどのような意思と工夫で作品を生み出したのか」というプロセスと主体性を重視する審査方針が打ち出されています。
こうしてみると、成長しているのは単独の「プログラミング教室市場」だけではなく、ゲーム制作、STEAM教育、探究学習、地域ワークショップ、コンテスト、AI活用を含む「子ども向けデジタル創作・探究支援」の領域だと捉えられます。
また、「AIがコードを書くならプログラミング教育は不要になる」という見方に対し、少なくとも教育需要が直ちに縮小しているわけではありません。市場の動きからは、需要の焦点がコーディング技能の習得だけでなく、ゲーム制作や探究学習など、「何かをつくりたい」という動機を起点にした学びへ広がっていることがうかがえます。広島大学の宮島衣瑛特命助教が提唱する「学びの作品化」が示すように、AIが実装の一部を代替する時代には、何をつくりたいのか、成果物を良いと判断できるのかという価値判断が、これまで以上に重要になります。
習い事、学校教育、地域イベント、企業教材という一見バラバラな動きは、「つくる体験を通じてAIを使いこなす力を育てる」という一つの潮流として捉えることができます。この体験を積んだ世代が今後10年前後で進学・就職の段階に入るとき、企業には、完成した知識や技能だけでなく、AIを活用しながら問いを立て、試作し、成果物を評価・改善する力をどう見極め、育成するかが問われる可能性がある、ということが読み取れます。
資料:
・矢野経済研究所「教育産業市場に関する調査」
・矢野経済研究所「教育産業市場に関する調査」
・コエテコbyGMO×船井総合研究所「2025年 子ども向け情報教育市場規模調査」(GMOインターネットグループ)
・矢野経済研究所「多様化する学び支援サービス市場に関する調査」
・矢野経済研究所「探究学習支援サービス市場に関する調査」
・AI時代のプログラミング教育 「学びの作品化」で価値観磨く
・カヤック/ゲムトレ「ゲームに関するアンケート調査2026」(GameBusiness.jp、2026年6月29日)
・CA Tech Kids・テレビ朝日「Tech Kids Grand Prix 2026」開催決定リリース(2026年5月25日)
・デジタルハリウッド、探究学習用のICT教材 高校に販売(日本経済新聞、2026年3月30日)
・プログラミング教育にAI活用、コード書かせて検証 次期指導要領(日本経済新聞、2026年7月30日)