業界ウォッチ 2026年10月27日

【データから読み解く】超富裕層成長国

今回は「超富裕層成長国」を取り上げます。

東南アジア市場を考える際、人口増加や中間層の拡大に注目しがちですが、高額な商品・サービスを購入する超富裕層にも変化が生まれています。日本経済新聞は2026年7月、東南アジアで超富裕層の増加が見込まれると報じました。同記事は、インドネシアの資源事業や企業の上場などを通じ、起業家の保有資産が拡大していると説明しています。

こうした動きは、現地での高級品販売や資産管理に加え、日本への旅行需要を考えるうえでも注目されます。ただし、富裕層の人数が増えることと、国民全体が豊かになることは同じではありません。また、成長率の高さだけでは、市場規模や獲得できる顧客数は判断できません。

では、超富裕層はどの地域で、どの程度増えるのでしょうか。さらに資産規模が大きいビリオネアでも、同じ国が成長を主導するのでしょうか。実際に数字を見て確認してみます。
ultra-rich growing countries

まず、英不動産サービス大手ナイト・フランクの『The Wealth Report 2026』を基にした図表を確認します。超富裕層とは、純資産3,000万米ドル以上の個人です。2021年と2026年は推計、2031年は予測であり、以下の伸び率は主に2026~2031年の5年間を指します。

世界の超富裕層は、2021年の55.1万人から2026年には71.4万人へ、29.4%増えています。2031年には94.8万人となり、さらに32.9%増える予測です。地域別では、2026年から2031年にかけて、北米が26.4万人から40.4万人、アジア太平洋が21.9万人から27.3万人へ増える見通しです。

ただし、北米の伸び率は53.0%で、アジア太平洋の24.3%を上回ります。世界に占める北米の割合も37.0%から42.6%へ高まる予測です。アジアの顧客層が拡大しても、北米への集中が弱まるわけではありません。
原報告書の国別表では、同じ期間に中国本土の超富裕層は12.2万人から14.5万人、インドは2.0万人から2.5万人へ増える予測です。日本も1.9万人から2.2万人へ増えますが、伸び率は14.4%で、中国の18.8%、インドの26.9%を下回ります。

次に、国別の伸び率を見ると、首位はインドネシアの81.7%です。超富裕層は3,833人から6,966人へ増える予測で、世界全体の伸び率32.9%を大きく上回ります。

ベトナムも1,233人から1,960人へ59.0%増、フィリピンは1,910人から2,844人へ48.9%増、シンガポールは7,171人から1万495人へ46.4%増となります。報告書の増加率上位10カ国のうち、東南アジアが4カ国を占めています。

一方、増加人数で比べると、シンガポールは3,324人で、インドネシアの3,133人を上回ります。この4カ国では、伸び率で首位の国と、潜在顧客の増加人数が最多の国は異なります。進出先の選定には、成長率と人数の両方を見る必要があります。

純資産10億米ドル以上のビリオネアに絞ると、増加率上位に入る東南アジアの国数は少なくなります。2026年から2031年のビリオネア増加率上位は、サウジアラビア182.6%(23人→65人)、ポーランド123.1%(13人→29人)、スウェーデン81.3%(32人→58人)、オーストラリア77.1%(48人→85人)、デンマーク75.0%(12人→21人)と続き、日本も65.1%(43人→71人)で6位に入ります。

東南アジア勢は、フィリピン62.5%(16人→26人)、インドネシア48.5%(33人→49人)、マレーシア38.5%(13人→18人)、シンガポール34.9%(63人→85人)と増加が見込まれますが、増加率上位10カ国に入るのはフィリピンだけです。ベトナムとタイは報告書の上位20カ国の表に掲載されていません。超富裕層の伸びで首位のインドネシアも、ビリオネアの増加人数は5年間で16人となる予測です。

2026年の世界のビリオネア3,110人のうち、アジア太平洋は1,116人と北米の965人を上回る最大の地域です。その中心であるインドは、207人から2031年には313人へ増える予測です。東南アジアでは超富裕層全体の拡大が見込まれる一方、ビリオネアの人数や増加率には国ごとの差があることが読み取れます。

もっとも、富裕層市場の成長予測には不確実性もあります。アジア開発銀行の2026年9月見通しでは、東南アジアの経済成長率の予測は小幅に上方修正された一方、国ごとに方向が分かれ、食料・エネルギー高などが需要や投資の制約になっています。

中長期では、中所得段階で成長が鈍り、高所得国への移行が難しくなる「中所得国の罠」が課題です。みずほ総合研究所は、タイの生産性向上、インドネシアの産業・雇用基盤強化、ベトナムの技術獲得と付加価値向上を課題として挙げています。既に高所得国のシンガポールとは、成長課題が異なります。超富裕層の増加だけでは、国民全体の所得向上や産業高度化まで確認できないのです。

こうしてみると、アジア・東南アジアでは、富裕層向けビジネスの対象となる顧客層が広がる可能性が読み取れます。ナイト・フランクは、世界の富裕層の消費が旅行や健康、自己成長などの体験へ広がる動きも紹介しています。日本企業にとっても、高級品に加え、滞在型観光や健康関連サービスなどが検討対象になると考えられます。

ただし、人数の増加が、そのまま自社の売上につながるわけではありません。必要なのは、国別の顧客数に加え、居住都市、資産の形成源、購買目的、現地の販売・提携先まで確認することです。成長率が高い市場には段階的に参入し、顧客との接点をつくりながら需要を検証する方法も考えられます。富裕層向け需要と中間層向け需要を分け、景気や制度の変化も織り込んで市場を選ぶことが、成長機会を見極めるうえで重要だということが分かります。

注:増加率は資料記載の人数から算出し、小数点第2位を四捨五入。増加率ランキングの対象は、2026年に超富裕層が500人超、ビリオネアが5人超の国です。

資料:
・Knight Frank『The Wealth Report 2026』(紙面8~11、56~57、76~77ページ)
・日本経済新聞「東南アジアで50億円富豪急増 インドネシア首位」2026年7月6日
・みずほ総合研究所『成長の岐路に立つASEAN』2026年4月1日(紙面4~7ページ)
・ADB『Asian Development Outlook September 2026』