BBTインサイト 2019年10月3日

【特別対談】アスリートこそ学ぶ時代~トップアスリートが本気で学んだら何が起きたか~


ゲスト:廣瀬 俊朗(元ラグビー日本代表キャプテン/ ビジネス・ブレークスルー アスリートアンバサダー / BBT大学院 修了生)
ゲスト:中竹 竜二(ビジネス・ブレークスルー大学 教授 / 日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター)
進行:白崎 雄吾(ビジネス・ブレークスルー 大学事業本部 執行役員)



ドラマ「ノーサイド・ゲーム」への出演、ラグビーW杯のための「スクラムユニゾン(Scrum Unison)」プロジェクトの立ち上げなど、ラグビー日本代表を引退した後も多方面で活躍を続ける、廣瀬俊朗氏。

引退とともにBBT大学大学院(以下BBT大学院)に入学しビジネスの基礎を学び、この度、ビジネス・ブレークスルー アスリートアンバサダーにも就任されました。ここでは、2019年9月17日の就任式で行われた、廣瀬俊朗氏とBBT大学・中竹竜二教授の特別対談をお送りします。

1. トップアスリートがビジネスへと転向を決めた理由

中竹:廣瀬さんはBBT大学院を修了されてそのままアスリートアンバサダーに就任されました。まず興味があるのが、卒論は何をテーマにして研究したのかということです。

廣瀬:僕はずっとラグビー日本代表のキャプテンをやってきたのですが、キャプテンというのは監督とチームの間の中間管理職のような立場で、それゆえにキャプテンだからこその悩みが結構あるんですね。そんな人たちを助けたいという思いから、「リーダーシップを養える事業の展開」を卒論のテーマに選びました。まずはスポーツの現場から始め、ゆくゆくは企業の方にもやっていただけるような事業イメージを持っています。

中竹:それは面白いテーマですね。その卒論では、一言で言うと、キャプテンシーについてどのような結論が出せましたか?

廣瀬:キャプテンは「全体最適を担わないといけない」ということでしょうか。ラグビーの場合、コーチは観客席にいて、キャプテンは現場にいるのですが、実際に現場で決断を求められる回数が多い。だから、チームが何のために頑張るのか、チームメイトはどんな関係性なのかを知っておかないと、いいチームは作れないと考えています。

白崎:キャプテンって企業でいうと課長ですよね。日本の課長もキャプテンって言われたらもっとやる気が出るかもしれませんね。

廣瀬:そうですね。実際に、僕は子どもや大人に対して体の使い方を教えることがあるのですが、そこの現場のトップをキャプテンっていう名前に変えたんです。そうしたら、もっと頑張れるようになった。

中竹:早速、アクションが起きたわけですね。

白崎:なるほど。そもそも私たち3人は、2015年のラグビーW杯後、共通の友人を通じて出会ったのですが、当時の廣瀬さんはある種燃え尽きている状態で、その姿を見て、「もう一度何かにチャレンジできないか」と思ってBBT大学院への入学を勧めたんですね。そのときは二つ返事で「イエス」でしたが、実際に2016年の入学時は、「俺、ついていけるか結構不安なんだよね」と仰りながらのスタートでした。なぜ入学しようと思ったのか聞いてもいいですか?

廣瀬:1つはもう一度何かを追いかけたいという思いがあったこと。
2つ目は、これまでの人生でラグビーしかやってこなかったので、ビジネスの話をもっといろんな人としたいと思ったこと。ラグビーをやっていると企業経営者の方と話す機会が多く、ラグビーの話では盛り上がるのですが、そのあとの経営の話などはあまりできなかったんです。
そこで盛り上がれれば得るものは大きいと思い、ビジネスの基礎的な学びを得たいと考えたんです。

3つ目は、ラグビー日本代表のキャプテンを務め、今度はビジネスマンとして成功できれば、親御さんには子どもにラグビーをやらせようという気持ちによりなってもらったり、後輩たちにはもっと気軽にスポーツしていいんだよというメッセージになったり、ある種セカンドキャリアのロールモデルが示せるんじゃないかと考えたんです。大きくその3つがあって入学を決意しました。

白崎:当時は東芝ブレイブルーパスで現役の選手としてプレーしていたので、スケジュール調整も大変だったと思いますし、ジャパンラグビートップリーグの選手会長に就任したタイミングでもあった。そうした大変な状況でも一歩踏み出せた理由は何ですか? 一歩踏み出したいと思ってもなかなか踏み出せない人って多いと思うんです。

廣瀬:特に理由はなくて、やるときは一歩を踏み出すだけですよね。考えすぎるとできなくなるし、やってみて合わなかったらやめればいいだけ。やってみないとわからないことはたくさんありますから。僕は自分自身がどんな人生を歩みたいのかを考えたとき、「人が歩いていない世界を歩きたい」という目的があります。

そのためには、もっといろんな人に会わないといけないし、自分が行きたくないと思ったりプレッシャーがかかったりするところにあえて一歩を踏み出さなければいけない。それが後々の自分の成長に繋がってくると思います。
人生100年時代なので、僕もまだあと60年くらいあります。ここで満足している場合じゃないし、もっといろんなことを学びたい。そういう思いが根本にありますね。

中竹:2016年のリオ五輪のあと廣瀬さんと会ったのですが、通常、いろんなチーム作りを経験し、試合中ではさまざまな決断をしてきた方は迷わない人が多い中で、廣瀬さんはこのとき迷っていたんです。おそらくそうしたことを取り払って、「いろいろとやりたいことがあって、どれもやりたい。どうしたらいいんですかね」と、子どものような純粋さで悩みをさらけ出す姿が印象的だったんです。僕はずっとリーダーシップ論を研究していますが、最近は、悩みをさらけ出せることがいいリーダーの中核にきています。


廣瀬さんはそれを最初から体現できていて、しかも学ぶ意欲も満載。そういう印象を持ちましたね。

2. 自分をさらけ出すとは、本当の自分を知るということ

白崎:廣瀬さんは『なんのために勝つのか』という書籍を出されていますが、今度は「目的」に話を移したいと思います。中竹さんは最近『insight(インサイト)』とう本を完訳されて、この本では「自己探求」をキーワードに、リーダーシップがセルフモチベートしていくうえで大事なんじゃないかと書いてあります。この「自己探求の重要性」についてはどう思いますか?

廣瀬:Why、つまりなぜそれをするのかというミッションがないと自分がブレてしまう可能性があり、つらいときに頑張れなくなると思います。本当にこれがやりたいことなのかをいつも自分に問いかけ、腑に落ちると自分自身に覚悟が生まれる。覚悟が生まれたらあとはもう一直線に進むだけですよね。

今、日本でのラグビーW杯に合わせて「スクラムユニゾン」というプロジェクトを立ち上げています。これは世界中からやってくるラグビーファンに対して、国歌やラグビーアンセムを歌っておもてなしをするというものですが、これをするにあたってはラグビー以外の人たちがたくさん関わっています。

僕はこれまでラグビーチームという、言葉で言わなくてもわかる濃い関係性の中で生きてきたので、そこを離れてみるとうまくいかないこともけっこうあったんです。そんなときも、「世界の人をおもてなしする」という大義があったから、最終的にまとまったんだと思います。

中竹:自己認識というのは今、人材育成の分野で主要トピックの一つですが、自己認識には大きく二つあります。それが、内的自己認識と外的自己認識。内的自己認識は、自分はどういう人なのかを自分で理解すること。

しばらくは自己認識というとこの内的自己認識を指していたのですが、もう一つキーとなるのが外的自己認識で、これは他者が自分のことをどう見ているかということです。要は「この人ちょっと勘違いしているよね」とか、「いいもの持っているのに自信がないね」と言われるのは、外的自己認識が低い証拠です。

確かに今は「パーパスドリブン」と言われていて、内的自己認識による目的意識は重要です。これがないとキャリアはほぼ失敗に終わります。そう言われるほどすべての学びの源泉は自己認識にあるのですが、ようやく外的自己認識の重要性が高まってきた。

先ほど、悩みをさらけ出せるのがいいリーダーの中核に来ていると言ったのはそのためです。自分で自分のことはわからない。だからこそ、人にちゃんと聞けるかどうか、フィードバックしてもらえるかどうかが大事になってきているわけです。

白崎:自己認識のためにも周りからたくさんフィードバックをもらうことが大事なわけですね。どういうコミュニティに属すればいいかもポイントだと仰っていましたね。

中竹:誤解されているなと思っている人からの意見は特に大事ですよ。

白崎:それは、自分に対して耳の痛いことを言ってくれる人ですね。

中竹:はい、自分と仲のいい人たちに聞いても期待する答えしか返ってこないので、あまり意味がありませんから。

3. アスリートの経験がBBT大学院で、BBT大学院での学びが将来の仕事で活きる

白崎:周りからのフィードバックを受けるという意味では、BBT大学院もフィードバックをたくさんもらえることを重要視しているコミュニティで、廣瀬さんも大学院生時代は相当フィードバックを受けたと思います。先ほど、「スクラムユニゾン」の話も出てきましたが、その設立にあたってBBT大学院での学びが影響した部分はありますか?

廣瀬:日本を訪れたラグビーファンに向けてその国の国歌を歌う。なぜそのアイデアが思いついたかというと、イノベーションについての講義で、イノベーションを起こすのに必要な要素がいくつかあった中で、僕は「掛け合わせ」に一番興味を抱いたんです。

スクラムユニゾンでいえば、「ラグビー×歌」。ラグビーは内側の人と仲がいいために、外側の人はそこに入りづらい印象があります。ラグビーが好きな人が歌好きになってくれればいいし、反対に歌が好きな人がラグビー好きになってくれたらいい。そうした垣根を下げる取り組みから始めてみました。

白崎:既存のビジネスとビジネスを掛け合わせたら新規ビジネスが生まれるということを、まさに廣瀬さんは実現されたわけですね。また、これまでラグビー一筋でやられてきたあとBBT大学院に学びの場を移して、通用した部分と通用しなかった部分の話を聞いてもよろしいですか?

廣瀬:まず通用した部分ですが、組織論や起業論のようなチャレンジ精神が求められる分野は自分自身がこれまでやってきたことなので貢献できると思っていました。一方で、通用しなかった部分というか難しかったのは、数字ですね。賃借対照表なんてほとんど見たことなかったですから。どれだけ利益が上がっているかは一応見ますけど、他の企業と比べてどうというのはほとんど見てこなかったので、そのあたりはいい勉強になりました。

白崎:キャッチアップしていくには、歯を食いしばって……?

廣瀬:歯を食いしばるのもそうですけど、とりあえず勉強は必要なので、めっちゃ勉強しましたね。特に、BBT大学院にはエアキャンパスというオンライン上のディスカッションのシステムがあるのですが、いろいろな方からアイデアをいただけるので、さまざまな学びを得られたのは大きかったです。自分が意見を言って、それに対してフィードバックしてもらえる。

しかも、BBT大学院の学生には保険会社の人も製薬会社の人も、その他さまざまなバックグラウンドを持った方がいるので、本当の多様な視点が集まっています。僕は大学院に通いながらも仕事上さまざまな場所に行っていたので、このエアキャンパスの仕組みがあって本当に助かったと思っています。

白崎:東京にいる選手だけでなく、九州のチーム、東北のチームもオンラインで学ぶことができる、1つのロールモデルになりたいと以前から仰っていましたね。中竹さんは2019年4月からBBT大学の教授になって、オンラインでの学びについてはどんな印象をお持ちですか?

中竹:オンラインっていつでもやれると思われがちですが、継続するとなると相当大変なんです。「一緒に行こうよ」という人はいませんから。廣瀬さんはかなり多忙な中だったと思いますが、タイムマネジメントを本当にしっかりしたから卒業できた。本当にリスペクトしていますね。

これを紐解くと、タイムマネジメントできる人はセルフマネジメントができる人と言い換えられますよね。セルフマネジメントというと、これまでは効率や論理性といったことがプライオリティでしたが、今はエモーショナルの時代。そういう意味では、相当な葛藤と戦い、歯を食いしばって、時に目的を思い出しながら、しっかりセルフマネジメントできたのかなと思っています。

4. 本当の「学び」とは何か?

白崎:廣瀬さんはBBT大学院を修了されて、今後の展望というか、この学びをどういう風に活かしていきたいなど、現時点で考えていることはありますか?

廣瀬:そうですね、もう一回ドラマに出て、俳優業に専念します。「ノーサイド・ゲーム」の次は、大河ドラマですかね(笑)。というのは冗談ですが……。

中竹:私はテレビは一切見ていないのですが、今回、20年ぶりくらいに見ました。毎週、感動しましたよ。廣瀬さん、演技がどんどんうまくなっていくからすごい。

廣瀬:演技に関しては、超一流の役者さんと一緒の空間に入れたことが大きかったですね。どういう風に話せばいいかがどんどん頭に入ってきて、徐々に体で覚えていくことができた。そういう意味では、やはりそういう環境に身を置くことの大切さを改めて実感しました。

実は、最初は本当に怖かったんです。俳優なんて一度もしたことないし、大勢のカメラマンに囲まれてプレッシャーも相当かかった。でも、始まる直前に、「よし、これを楽しもう」と開き直ったんですね。それでこの状況を楽しめるようになったら、自然にうまくいくようになった。本当にチャレンジしてよかったと思っています。

それで、話を戻すと、今後の展望というと、BBT大学院で学びをインプットしたので、今度はその学びを実行に移すフェーズだと思っています。だから、どんどん動き出したい。リーダーシップ論の授業もやりたいですし、メディアに出る面白さも知ったので、メディアに出つつバランスを取りながら自分の事業もやっていきたいと思っています。

中竹:廣瀬さんは今、素晴らしい役者さんと一緒の空間にいたから学べたとおっしゃいましたが、これは誰にでもできることではなく、学ぶOSを持っていないとダメなんです。人間には脳科学的に4つの学びの柱があり、今までは「情報を収集する」ことが学びとされてきたのですが、それは4つの柱のうちの1つのすぎないんです。その学びを「リフレクション=内省」し、そして「クリエイト=創造」する。そして、その創造を「検証」する。これらを組み合わせるOSを持っていないとそもそもダメなんです。

よく勉強熱心でいっぱい学んでいるけど全然成果を上げない人がいますが、それは内省し、創造し、それが本当に現実の世の中にあっているかの検証をしていないから。これだと学んだ価値がなくなってしまいます。そういう意味で、廣瀬さんはそれらをすべて持っている。素直に学び、いろんな物事にチャレンジし、内省し、フィードバックをもらい、実行に移す姿は、専門的に見ても学びのサイクルになっていますよね。

白崎:ありがとうございます。イケていない中間管理職のやる行為として、「新しいものはないか」と常に新しいものを求めることがありますね。そんなに世の中に新しいことはないし、既にあるものをどうやって自分自身で活用して次のステップアクションに繋げていくか。

そうした話を二人がされているのが非常に印象的でした。
本日はどうもありがとうございました。

ゲスト:廣瀬俊朗(ひろせ としあき)
元ラグビー日本代表キャプテン / ビジネス・ブレークスルー アスリートアンバサダー / BBT大学院 修了生
2016年10月よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科 経営管理専攻入学、2019年9月修了。慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパスを経て、2007年にラグビー日本代表に選出されキャプテンも務める。2016年現役引退後の現在、2019ラグビーワールドカップアンバサダー、 スクラムユニゾン発起人、NPO Doooooooo理事、スポーツボランティア協会 代表理事、一般社団法人 キャプテン塾 代表理事。TBS系ドラマ「ノーサイド・ゲーム」にも出演。

  • <著書>
  • 『ラグビー知的観戦のすすめ』(KADOKAWA)
  • 『なんのために勝つのか。 ラグビー日本代表を結束させたリーダーシップ論』(東洋館出版社)

ゲスト:中竹竜二(なかたけ りゅうじ)
ビジネス・ブレークスルー大学 教授
1973年、福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院終了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自立支援型の指導法で大学選手権2連覇を果たす。2010年に日本ラグビーフットボール協会「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立。

  • <著書>
  • 『新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)
  • 『失敗から何度でも立ち上がる僕らの方法』(共著、PHP研究所)
  • 『自分で動ける部下の育て方 期待マネジメント入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
  • 『鈍足だったら、速く走るな』(経済界)