政府も個人も「借りすぎていた」・・・米国の実態
7―9月期にマイナス成長に転落した米景気は金融危機に伴う信用収縮と実体経済の悪化が同時に進むリスクにさらされています。また、米調査会社大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が10月28日発表した8月のS&P/ケース・シラー住宅価格指数は、全米主要10都市圏において前年同月比17.7%の下落となり、調査開始以来最大の値下がりとなりました。
金融機関に対しては、米国政府が無限の保証を行うという「空約束」を公言しているおかげで、今のところは何とか小康状態を保っているという状態です。しかし、政府の空約束が及ばない「実体経済」は容赦なく厳しい状況に陥っており、米国の実体経済の悪化に関する指標や実例は枚挙に暇がないほどです。
例えば、S&P/ケース・シラー住宅価格指数の推移を見ると、20ヶ月連続の下落を記録していることが分かります。この水準が回復しない限りは、米国の個人消費も回復する見込みは非常に薄いと思います。
2008年11月10日号Newsweek誌の記事では、米国は政府も個人も将来のお金を前借して無駄遣いし過ぎたということが指摘されています。個人は米国のクレジット社会で収入を前借りすることでお金を使いすぎてしまい、政府は必要とされる以上に福祉や医療といった分野にお金をつぎ込んでいたというのです。
今後はこうした無駄遣いの習慣を改めることが必須となるでしょう。これまでクレジットを上手に活用していた米国人が、今後は自分の手に入ってくるお金の中だけで生活をすることを余儀なくされます。この調整は想像以上に大変だと思いますが、すでに米国では実体経済の悪化に伴い、国民の消費活動が大きく変わる兆しが見え始めています。
●あらゆる面で、実体経済が急速に悪化した影響が見え始めた
2008年11月3日号のTIME誌には、「Life Without Credit(クレジットが使えなくなった)」というタイトルと共に、ほとんど客のいないお店の写真が大きく掲載されていました。米国のGDPを上回る約1300兆円という莫大なクレジットのせいで、完全に個人消費が落ち込み、お店は閑古鳥が鳴いている状態だということです。
ショッピング業界だけに限らず、映画などのエンターテイメント業界、レストランなどの外食業界、旅行業界といったあらゆる業界で「実体経済が著しく悪化している」ということがわかる指標が示されています。貯蓄一辺倒の日本人などに比べて、米国人は上手にクレジットを活用し、「人生を楽しむのがうまい」と言われてきました。しかし、情けないことですが、その実態としては「借りすぎていたことにも気づかなかっただけではないか」と批判されても致し方ない状況だと思います。
こうした米国の実体経済の悪化を受けて、2008年11月10日Business Week誌には、金庫の中で膝を抱えて丸まっている人を漫画で描き、これからは個人の財布の紐が固くなるという記事がありました。その記事によると、今後はこの人たちに「如何に出費させるか」を工夫することが大切であり、今までのように単に良いモノやサービスをCMで告知すれば売れたという時代ではなく、現実的に価値があり、かつ必要性や耐久性も備えたモノでなければ売れないということが指摘されていました。
もっともな指摘のように見えますが、主張していることは至極当然のことばかりです。私に言わせれば、マーケティングの基礎的な事項を指摘しているだけに過ぎません。逆にこれまでは一体どんなものを買っていたのか?と問いただしたい気持ちになります。
また、米国の実体経済が急激なスローダウンをして個人の消費が落ち込んでいることを証明するように、米小売大手のウォルマートが一人勝ちの様相を見せています。ウォルマートが5%というプラス成長を示す一方で、競合のTargetは-0.4%、KMARTは-5.6%といずれもマイナス成長へと転落しています。
Business Week誌では10月末にも不況に強い会社として「COSTCO(コストコ)」という会社を取り上げていましたが、ウォルマートの事例を見るとさらにこの風潮が強くなっているのだと感じます。「Everyday Low Price(毎日安売り)」というスローガンからも分かるとおり、ウォルマートはまさに不況に強い企業の代表格と言えるでしょう。
個人消費の側面を見ても、企業の業績の側面を見ても、現在の米国実体経済が急激に落ち込んでいることは疑う余地はありません。今後も、次々と実体経済の悪化を示す指標や事例が出てくると思います。
米国は非常に厳しい状況を迎えることになります。まず、政府も個人も無駄遣いに歯止めをかけるということが第一歩でしょう。これまで世界の経済を牽引してきた米国経済ですが、その時代が終焉を迎える可能性もあると私は見ています。オバマ新大統領が誕生し、今後どのような動きを見せるのか、米国の経済政策にはさらに注目していきたいと思います。
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